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 騒動のあった入学式から二日後。  桃華は昼休み、校舎の中をウロウロと散策していた。いつ迷子になってもおかしくないのだから、教室や保健室の位置は完璧に把握しておかねばならないのだ。  なにせ、この星辰高校は広い。学生数九百人を数え、一学年の教室の数は《甲|こう》、《乙|おつ》、《丙|へい》、《丁|てい》、《戊|ぼ》、《己|き》、《庚|こう》、《辛|しん》、《壬|じん》、《癸|き》と十個もある。ちなみに桃華のクラスは丁である。大学志望を国立文系に選択したらそうなった。  とにかくクラス名が覚えづらい。そして一年は三階、二年は二階、三年は一階と分かれている。逆にしろよ、と桃華は心の中で突っ込んだが、校舎四階が食堂なので昼休みのご飯タイムは早く席が確保できるという利点もある。  さて、桃華は今、校舎のどこを歩いているか。  少なくとも二階であることは確かだ。そしてクラス等はなく科学実験室等があることから、どうやら行きたい場所とはまったく異なるところにいることだけは確かだ。 さて、どうしよう。保健室を探してもう少し散策してみようか、諦めて三階の教室に戻ろうかと桃華が思案していると、声がかけられた。それも、かなりの大声で。 「よう、桃華!」  この気さくな声は聞き覚えがあった。  桃華は周囲を見回す。誰もいない。  ではどこから聞こえてきたのか? 「ここだよ、ここ!」  もう一度声がかけられると、すぐに分かった。  一階のロータリーから、二メートルはある大男が桃華のほうを向いて手を振っていた。  元中学陸上部の先輩、荒井大樹だ。  桃華は叫ぶ。 「先輩!? 何でいるんですかー!?」 「待ってろ、そっち行くからよ!」  そう大声で叫び合うと、桃華はともかく、大樹の周囲の生徒からの視線が集中してしまう。  桃華は急いでしゃがみこみ、大樹を待った。  一分とかからず、大樹は桃華のいた地点に到着した。そして一緒にしゃがむ。 「何だ桃華、ここ受けるんなら言ってくれればよかったのによ」 「言ってどうなるんですか」 「俺が楽しい! で、何で迷子になってんだ?」 「迷子じゃありません! 保健室を探してるんです!」 「そりゃ迷子じゃねぇか」  冷静に突っ込まれた。  大樹は桃華の中学校からの知り合いだが、何かと気が合って桃華は慕っていた。大樹も弟妹が多いせいか、同じような扱いで桃華をよく可愛がってくれた。  そう、あの救急車事件の日までは。  あれ以来、部活に顔を出さなくなった桃華と、受験生だった大樹は顔を合わせる機会がめっきりと減り、連絡も取り合わなくなっていった。  だから、これがほぼ二年ぶりの再会ということになる。 「しっかし、桃華は小さいまんまだな、おい」  桃華は頬を膨れさせる。 「先輩がでかすぎるんです。身長どこまで伸びました?」 「聞いて驚け、二メートル三センチだ!」 「わー、バスケの選手並みですねー」  大樹の身長の伸びにはもう呆れるしかない。聞く話によると、小学校の時点で一メートル八十センチ近くあったらしい。 「ははは、バスケなんかやらねぇよ。ずっと帰宅部で受験支度だ」  ん?  元陸上部だった大樹が帰宅部?  桃華は大樹に問う。 「先輩、クラスは何です?」 「甲乙の甲組だぞ」 「ってことは、難関国立狙いですか!?」  甲、乙クラスは旧帝組と言われる難関国立大学受験専用クラスだ。そんなところに大樹が入れるとは、桃華は想像だにしなかった。人は見た目によらない。 「うちも家計が厳しいから、大学は国立の奨学金狙えるところしか受けられねぇんだわ。まあ、勉強は割と性に合ってるからいいけどな」 「見た目によりませんねー……」 「おいこら、失礼なこと言うな」 大樹は桃華の首に手を回して、頭にグリグリ拳骨を当てる。 「痛い痛い! もう! 女の子になんてことするんですか!」  パッと大樹は手を離し、後ずさる。 「わ、悪い悪い、つい昔の癖で」  何だかバツが悪い。  桃華は雰囲気を変えるため、話題を逸らした。 「そうだ、先輩、保健室どこにあるか教えてくれませんか?」 「え? あ、ああ、いいけどよ」 「そうと決まれば行きましょ、行きましょ」  桃華と大樹は立ち上がる。並ぶと五十センチの身長差が余計に目立つが、桃華はもう慣れた。  ところが、歩き出すと、大樹の歩幅と桃華の歩幅がまったく合わない。 「先輩、待ってー!」  置いていかれそうになる桃華に、大樹はやっと気づいた。 「あー、ちょっと来い来い」  そう言って、やっと追いついた桃華の右手を、大樹は左手で握った。 「これならはぐれないだろ。ちゃんとついて来いよ」 「はーい」  桃華と大樹は人通りのない廊下を、手を繋いで歩く。  何か違和感があるな、と思いながらも、桃華はるんるん気分で大樹にくっついて行く。大きな背中はやはり頼り甲斐がある、というか大樹の手が大きすぎて桃華の手が見えない。  やっとのことで保健室に辿り着いた二人は、そのまま保健室に入る。そして、保健医は吹き出した。 「君たち、仲良すぎじゃない?」  桃華と大樹ははっと気づいて、急いで手を離した。  さらに桃華は、保健室には場所の確認だけで何の用事もないことにも今更ながら気づいた。 「あー! 恥ずかしー!」 「だははは! いいじゃねぇか、俺とお前の仲なんだからよ!」 「誤解を招く発言はやめてください!」  どういう仲だ、ただの元部活の先輩後輩ではないか。  そんな桃華と大樹に、保健医はにこやかに注意をした。 「あー、君たち、保健室では静かにね」  そんなこともあり、桃華は高校生活開始三日目で荒井大樹と再会した。
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