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「桃ちゃーん、疲れたー」  そんな甘えた声を出して、拓真は桃華の教室の机に突っ伏す。  夏期講習最終日、午後三時。一年の教室からわざわざ桃華の教室まで来た目的は何なのか、と桃華が尋ねると、拓真はにっこり笑って答えた。 「アイス食べに行こうよー」  その提案には賛成である。近所の31アイスクリームがいい。 「えー、コンビニでいいじゃん。ガリガリ君食べたい」  その提案には反対である。せめてハーゲンダッツがいい。 「しょうがないなぁ。じゃあ、行こっか」 「うん」  こうして、桃華と拓真は久しぶりに一緒に帰り道のコンビニに立ち寄った。  コンビニの中はクーラーが効いていて気持ちがいい。拓真はアイスのガラス棚に手をくっつけて冷たい、冷たいと遊んでいる。 「こら、遊ぶんじゃありません」 「はーい」  桃華の注意を受けて、拓真は渋々ガリガリ君を選ぶ。桃華はハーゲンダッツの抹茶味を選んだ。  レジを済ませ、イートインスペースで二人並んでアイスを食べる。暑い夏のアイスは最高だ。文明の利器万歳、クーラー様々である。  拓真は早速ガリガリ君を食べ終え、鼻歌まで歌ってご機嫌だ。片や、ハーゲンダッツはなかなか溶けないため、桃華は大苦戦中である。 「ねーねー桃ちゃん、進路のこと決まった?」 「んー……笑わない?」 「笑わないよー」 「あのね、こないだ先輩と話してて、記者とか、小説家とかどうかな、って。おっちょこちょいなの関係ないし、人の生き死にに関わらないし」 「へー! いいじゃん、いいじゃん! それ、俺もなりたい!」  拓真は無邪気に言い放つ。 「拓ちゃんは拓ちゃんの進路があるでしょー」 「俺は桃ちゃんと同じとこ行きたいもん」  困った子である。そう言えば、小学校のころから桃ちゃんと一緒がいい、と何かにつけて拓真が騒いでいたのを思い出す。あれは何だったか、帰り道の別れ道で、親御さんが迎えに来ていたときのことだった。  依存されてるなぁ、私。悪い気はしないけれど。  桃華はやっと溶けはじめたハーゲンダッツにスプーンを突き立て、一気に搔っ食らう。キーンとなる冷たさがたまらない。 「桃ちゃんはさ、やれば何でもできると思うよ」  突然、拓真はそう言った。 「何それ」 「本当だって。勉強も運動もできるじゃん? おっちょこちょいなのはまあ……かばい切れないけど」  何と失礼なことを言うか。 「でも、桃ちゃんは俺たちのヒーローだったんだよ」  俺たちのヒーロー?  桃華はぽかんと考え込む。拓真はテーブルにべたりと体を突っ伏し、楽しげに語る。 「下級生とも一緒に遊んでくれるし、勉強も教えてくれるし、俺が帰り道怖いって言ったら一緒に帰ってくれたじゃん。皆、桃ちゃんのこと、好きだったよ」  そうなのか。桃華は初めて知った。  男子に混ざって遊ぶ桃華は、目の前の現実から目をそらすためにそうしただけだった。純との喧嘩、クラスの女子からのいじめ、とにかく学校が、クラスが嫌だった。休み時間だけがそんなしがらみから解放される時間で、遊ぶことに必死だった記憶がある。  それを拓真は分かっていないだろう。いや、分からなくていい。ヒーロー像を壊すわけにはいかないから。 「そうなんだ」 「そうなんだよー。今も好きだけどね」 「へー」  桃華は違和感を覚えた。もしかして、今の好きは告白なのでは? 「拓ちゃん、今の好きってどういう意味?」 「そのまんまの意味だよ。好きです、付き合ってください」  拓真は頬杖をついて、笑った。  桃華はしばし考え、言葉の意味を何度か脳内で反芻して、現実に引き戻された。 「ほああああ!?」  桃華は思わず奇声を上げた。驚いた拓真はしーっと桃華の口に蓋をする。 「桃ちゃん、店内だから! 大声出しちゃダメ!」  まったくである、原因であるお前が言うなだ! 「で、でもほら、私おっちょこちょいだから」 「そこも含めて好きだよ」 「何で?」 「惚れる理由ってそんなに必要?」  何と言うかっこいいセリフだ。いつもの拓真ではないかのようだ。  桃華は顔を赤らめ、ハーゲンダッツの最後の一口を食べ終える。  拓真は相変わらず笑って、桃華の顔を見ていた。 「……今は、答えられないかな」 「そっか」 「もし同じ大学行ったら、考えるけど」 「本当!?」 「あー、もー、まだ決まってないから、あと一年以上あるから」 「それでもいい! やったー」  拓真は万歳して喜んでいた。  桃華は、早まったかな、と考え込んでいた。
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