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「なんじゃ? これは」 「見たことないもんばっかだな……」 「なにこれ! おっきい!」  自室から出て一階へ降りると、三人は好奇心の塊となっていた。生きていた時代が違うので、蘭李にとって当たり前のようにあるものでも、彼らにとっては珍しいものばかりだ。例えば、蜜柑はガスコンロを、秋桜はデジタル時計を、睡蓮はテレビを見て驚いている。  蘭李は冷蔵庫から水を取りだし、棚に置いてあるコップを引っ張り出して中に注いだ。コップ半分くらいまで入れたところで、その水を一気に飲み干す。冷たい水が彼女の喉を潤した。コップから口を離した蘭李が、三人を横目で見た。 「ねぇ、蜜柑さん達が生きてたのっていつの時代なの?」 「いつの時代、と言われてものう……」 「何年前とかさ」 「正直、その当時が何年だか全く分からない」 「僕もー!」  なんだ、分からないのか―――蘭李は残念そうな表情をする。睨むように幽霊達を眺めていたコノハが、隣の蘭李に振り向いた。本当にこいつらのこと信じるの?―――そう言いたげな目をしている。蘭李は苦笑いを返した。 「信じる信じない関係なしについてくるじゃん。この人達」 「お祓いしてもらおう」 「お祓い出来るの……?」 「出来るでしょ。幽霊だし」  お祓いと聞いて、蘭李の頭に浮かんだ友人。黒いショートヘアーに太刀を背負う少女。 「たしかに『ハク』なら出来そうだけど……」  蘭李がちらりと時計を見る。まだ朝の六時だった。彼女にとって起きるのには少し早いくらいの時間帯だが、今は冬休み中である。彼女としては、休みの日でまでこんなに早起きしたくはないし、その友人も起きてるとは考えにくい。  蘭李はお茶碗を出し、お釜から白米をよそる。陶器越しに温かさを感じながらテーブルについた。満足したのか、ちょうど蜜柑達も彼女の方へ飛んでいった。 「中々面白いのう! おぬしの住みかは!」 「どこのお家もこんなもんですよ」 「えぇーっ! みんなこんなに大きいの持ってるの!?」 「それはテレビ。スイッチ入れると……ホラ」  蘭李はチャンネルをテレビ画面に向け、電源ボタンを押す。画面にはニュースが映し出された。ちょうど天気予報をやっていたところだった。今日の天気は晴れ。降水確率ゼロパーセント。出かける予定は無いから関係ないや―――蘭李は白米を咀嚼しながらそう思う。  一方の蜜柑達は、驚愕の顔をしていた。 「うぇええええっ!?」 「何だこれ……!?」 「人がいるぞ!? 箱の中に!」 「映像だよ。この人は別の場所でこれやってるの。で、このテレビに流してくれてるの」  三人の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんだ。先祖達の困惑顔を前にする子孫は、また少し考え込む。  この人達、いったいどの辺までなら分かるんだろう? テレビを知らないってことは、テレビが作られる以前の生まれ……うーん、どこより以前なんだ? 全然分かんないや……。うう、ちゃんと勉強しておけばよかった……。  彼女は自分の知識の無さを恨む。そしてそこで、全く関係の無い疑問が一つ生じた。白米を一口食べ、頭を悩ます三人の方を向いた。 「そういえば、誰が一番年上なの?」 「俺達か?」 「そう」 「それは我じゃ!」  蜜柑が手を腰にあて、えっへんと息を鳴らした。その脇で秋桜と睡蓮が、蜜柑を引き立てるようにひらひらと手を揺らす。なんだあ、と蘭李は残念そうに呟いた。 「蜜柑さんかあ」 「意外?」 「うん。てっきり秋桜さんかと思ってたから」 「失礼じゃのう!」 「この人の後に俺。で、最後がこいつってわけ」 「僕が一番若いんだー! ね、意外?」 「そこは意外じゃないかな」 「えー。なんだ、つまんないの!」  蜜柑、秋桜、睡蓮、そして蘭李が四代目という順番らしい。敬えひれ伏せなどとわいわい盛り上がる四人から外れ、一人だけテンションの上がらない少年がいた。 「ねえ、本気でそいつらの言うこと信じてるわけ?」  怒ったように異議を唱えるコノハ。未だ警戒心を解いておらず、むしろさっきよりも睨みの鋭さがキツくなっている。蘭李は口に含んでいた白米を飲み込んで答えた。 「まだ本気にはしてないよ」 「いやしてるでしょ。ガッツリ信じてるじゃん」 「半々だもん」 「なかなか信じてもらえぬのう!」 「アンタ、なんでそんな頑なになってるんだ?」 「なんで? じゃあ訊くけど、アンタらがこいつの先祖だとして、なんで僕にも姿が見えるわけ? 子孫でもない、ましてや僕は人間でもないのに」  沈黙が流れた。  たしかに―――蘭李は不覚にも納得してしまう。そういえばコノハにも普通に見えている。華城家唯一の魔力者であるあたしはともかく、血の繋がりのあるお母さんでも見えなかったのに。それは魔力者ではないからだけど、この人達の理論だと、コノハに関しては少しおかしくなる。  蘭李はちらりと蜜柑の方を見た。蜜柑は少し間を置いて、腰に手を当て元気に答えた。 「それは分からん!」 「は?」 「ぬしら分かるか?」 「全然!」 「全く」  当たり前のように三人は答えた。蘭李とコノハは唖然とする。二人とも予想にもしてなかった回答で、何と返せば良いのか迷っていた。やがてコノハが、戸惑いながら口を開く。 「じ、じゃあ先祖じゃないってことだよね?」 「それは違う! 我らは確実におぬしの先祖じゃ!」 「だから何で僕にも見えてるんだって」 「それは知らん!」 「分かんないものはしょうがないよー!」 「嘘言ってもしょうがないしな」  分からないで押し通す三人。全く答えが得られないコノハには苛立ちが募り始めた。そんな光景を眺めていると、蘭李はニヤリと笑い、にゅっと横からコノハの顔を覗き込んだ。 「いっつも他には興味示さないのに珍しいねー、コノハ。そんなに三人が気になる?」 「これから正体不明の奴らにつきまとわれるんだぞ? 蘭李、耐えられるの?」 「そりゃまあ……怖いけど……」 「おぬしにはつきまとわん!」 「こいつにつきまとうんだったら、僕にやってるのと同じようなもんだよ」 「それもそうだな」 「武器だもんねー!」  睡蓮がコノハの頬を指先でつつく。しかし当然指はすり抜ける。それに便乗して、蜜柑がコノハの頭を撫でる振りをする。全く触られていないが、コノハが鬱陶しそうに二人を手で払いのけた。しかし二人も負けじと、つつくスピードを上げたり撫でるスピードを上げたりした。最終的には、コノハが腕を刃に変化させそれで二人を斬りつけるまでに至った。もちろん幽体に物理攻撃は効かない。 「ちょっとコノハ! そこら辺のもの斬らないでね!」 「さっさと消えろ! 幽霊!」 「うわー! 怒ったー!」 「短気よのう!」 「聞いてないな」 「聞いてないね……」  唯一傍観している秋桜は、空中胡座をかいた。蘭李は隣に浮いている彼を横目で見ながら、はっと気が付く。  そういえば、この三人はコノハに何の疑問も持たずに接している―――生まれてから十三年、こんな風にコノハと自然に接する人達と彼女が出会ったのは初めてだった。魔力者ではない人にコノハのことを説明すれば、 「剣が生きてるわけないじゃん」  と相手にされず、だからといって魔力者に話しても、 「聞いたことはあるけど……あれおとぎ話での話じゃないの?」  と、なかなか信じてもらえない。実際に蘭李も、自分と同じようにコノハのような武器を持った人と出会ったことがない。  だからなのか、蘭李は突然にんまりとした。秋桜はその顔にぎょっと驚いたが、コホンと咳をひとつつき口を開いた。 「そうだ。この町を案内してくれよ」 「町を?」 「何かあった時、土地が分かってれば楽だろ」 「たしかに!」 「いやッ……どうせ透過出来るんだから関係ないだろッ!」  ぜーはー息を切らしながら、コノハが蘭李のもとへ戻ってきた。その背後で蜜柑と睡蓮がニヤニヤ笑っている。完全にコノハが遊ばれていたらしい。蘭李がコノハの肩に手を置き、おつかれと声をかける。しかし蘭李は、鬼のような形相で睨み返された。 「他人事みたいに言いやがって……!」 「そんなに睨まないでよ! なんて言えばよかったの!?」 「何も言うなよ」 「そっちの方が嫌じゃない……?」 「わーい! 探検だー!」  睡蓮を先頭に、幽霊三人は勝手に窓から飛び出していった。もちろん、ぴっしりと閉まった窓からである。引き止める間もなく彼らを見送った蘭李は、呆然とその場に立ち尽くす。コノハは傍で大の字になって寝そべった。 「行っちゃった……案内してくれって言ってたのに……」 「もーほっとけば?」 「でも、大丈夫かな……」 「どうにかなるだろ。幽霊だし」  蘭李は少し考えた。たしかに幽体だから誰かに見つかることもないし、事故に遭うこともない。思い付く問題といえば、家に帰ってこれるかだけど……。 「大丈夫か!」  なんの根拠も無いけど! と付け足す蘭李。  ちらりと横目を流すと、コノハは剣の姿に戻っていた。動く気配は無い。それを見た蘭李は、あくびをひとつ。 「あたしももう一回寝よーっと」  コノハを持って、蘭李は二階の自室に戻った。鞘にコノハを戻し、もぞもぞとベッドに潜り込み、目をつぶる。意識が薄れていく中、彼女はもう一度思い返した。  先祖、かあ。色々と強烈だったなぁ。  でも……もし次起きた時、今までのが全部夢だったら……―――。 * 「随分と小柄になったのう!」 「あいつの方が……」 「女の子になってるー!」  一人の少女を取り囲む三人の幽霊。じっと少女を見ては各々感想を吐き出していく。囲まれている少女は、心底うざそうな顔をしていた。時折蘭李を見て「どうにかしろ」という目で訴えている。蘭李は「うん! ごめん無理!」という目で返した。  始まりは、一時間程前だった。蘭李が二度寝から目覚めた時、時刻は既に正午に近かった。なぜ起こしてくれなかったのかと母親に聞けば、 「だってアンタ、体調悪いんでしょ?」  とのこと。蘭李は、はじめ何のことか分からなかったが、見えない蜜柑達を指差して騒いだことを思い出した。  ああ、それか―――後悔するものの、逆に病院に連れていかれなくてよかったとも思う蘭李であった。  そんなわけで昼食を摂り、身支度も済ませ、蘭李はある友人にメールを送った。ちょうど先祖達も帰ってきた頃だった。 「なんか、あたしの先祖を名乗る幽霊が出たんだけど」 「は?」 「とにかく見てくれない?」 「いいけど……害はありそうか?」 「いや全然。むしろ守るとか言ってるけど」 「なんだそれ……じゃあ飯食ったら行くわ」 「サンキュー!」  それで来てくれたのが、今現在囲まれている少女『《冷幻|れいげん》白夜』である。『ハク』こと白夜は、幽霊の類いが見える魔力者である。たまに嫌そうに虚空を見つめているが、大体見えてはいけないものを見ているらしい。以前、蘭李が見てみたいと彼女に頼むと、 「見ても気持ち悪いだけだから止めた方がいいよ」  と断られてしまった。しかし、ダメと言われれば余計見たくなるのが人間の性。何とか見せてもらおうと交渉するが、未だに認めてもらえていないらしい。 「この癖のある毛はそっくりじゃな!」 「あいつはぼさぼさじゃなかった……!」 「あははー! そっくりー!」 「やっぱ代々癖っ毛なのか……」  先祖達は白夜の髪をいじり始めた。当然触れることなど出来ないが、それでも手を止める気配は無い。白夜も何故か、自分の髪を少し気にし始める。  なぜこんなにも白夜がいじられているのか。理由は簡潔だった。  三人とも、当時の冷幻家と知り合いだったからである。  睡蓮から言わせれば、 「ちっちゃくなってるー! しかも女の子になってるー! わー! かわいー!」  で、秋桜からは、 「あいつの方が何倍も可愛かった」  である。蜜柑に関しては、 「名前は同じじゃが……うざさは無くなったのう! 良いことじゃ!」  という謎の評価が下っていた。各々冷幻家に対するイメージがだいぶ違うらしい。蘭李は先祖達を白夜から退かせながら呟いた。 「ハクがご先祖様とおんなじ名前だったなんて知らなかったよ」 「え? ああ、まあ言ってなかったし」 「しかも初代なんだっけ? すごいね。なんで言わないの?」 「嫌なんだよ。周りから変な期待持たれるしさ」 「あー……そーなんだ」 「私は私だっつーの」 「そうじゃな! あやつよりもぬしの方が何倍も良いと思うぞ!」 「だから、そーゆーのやめろって言ってんだよ……」  白夜が諦めにも近い、だるそうな目で蜜柑を見た。比べられるのは嫌だよねぇ、と言いながら、蘭李はうんうんと頷く。彼女にも思い当たる節があるらしい。  そういえば、と白夜が思い立ったように言葉を発した。 「この人達、たぶん守護霊的なもんだよ」 「守護霊? 幽霊とは違うの?」 「この世に未練があるって感じでもないし……それに三人いっぺんに出てるし」 「三人も守護霊が出るなんてあるの?」 「聞いたことはない」 「ないんかい」  疑いの眼差しで白夜を見る蘭李。それから、三人を年齢順に見た。当然見たって答えは得られない。蘭李と白夜は、二人で腕を組んで唸った。しかし、原因である幽霊達は他人事のように笑った。 「良いではないか! 我らのことなど!」 「そうだ。害は無いんだし」 「危ないよーって教えるだけだもんね!」 「蘭李、訂正だ。こいつら守護霊もどきだ。危ないよーって知らせるだけの無力な守護霊なんていない」 「あたしもそう思う」  白夜がテーブル上のコップを手に取り、口につける。そのままゴクゴクと飲み始めた。緑茶が彼女の体内へと吸い込まれてゆく。全て飲みきったところで、白夜はすくりと立ち上がった。 「私これから公園に行くんだけど、来る?」 「え、なんで急に公園?」 「最近そこにモノノケがいるらしいんだよ」 「なるほど。事件の香りですな?」 「ノリノリだな……」 「なんか楽しそうだから!」  お前なあ、と呆れながら、白夜は立ち上がる。同じく立つ蘭李に短く吐き捨てた。 「油断してると大怪我するぞ」 「分かってるって!」  蘭李と白夜はコートを羽織り、近所の公園へと向かった。
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