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 裕二さんと家族になって初めての夕食を終え、私は一人、自室へと戻っていた。 「由樹、よく喋れるな」  一階から微かに聞こえる声。  それはまさしく由樹の声であり、お母さんの声、そしてお義父さんになった裕二さん。  声は聞こえないけど紗英ちゃんもいるのだろう。  私はお母さんの再婚に結果的に賛成した。  由樹に説得されたのもあるけど、それでも自分で決めたのだ。  とはいえ、やはり、新しいお義父さんというのは慣れない。  だから私は自室という共同スペースから隔離された場所へとやってきたのだ。  いや、逃げて来たの間違いだ。  まともに目も合わせられない。  こんなのじゃだめってわかってるのにどうしてもだめだった。  やはり私はまだ、だめみたい。 「ふぅ、こんなこと考えててもしょうがないか。家族なんだし嫌でも会うんだからいずれ慣れてくるでしょ」  思考を途中で止め、私は目の前に開かれたノートに向き合った。  シャーペンを手に取り、まだ習っていない由樹に借りた高校一年生の教科書を開く。  成績のことでお母さんに迷惑はかけたくないもんね。 「よし、勉強頑張ろっ!!」  私はそんなことを思いながら教科書に目をやる。  今見ている教科書は数学。  由樹に借りたその教科書はかなりボロボロだった。 「由樹、どんだけ勉強したのよ⋯⋯さすが成績上位者ね」  教科書のボロボロ具合を見て、私は呆れ、苦笑を浮かべていた。  私のように由樹もまたお母さんに迷惑をかけないように勉強してたと思うと途端に嬉しくなった。  そうして頭の中で由樹のことを考えていると、現実の方でも『由樹』という単語が耳に入ってきた。 「なんの話してるんだろ?」  部屋からぎりぎり聞こえる家族団欒の会話に私は興味を示した。  微かに聞こえる会話に耳を澄ませると、内容が認識できるほど聞き取ることができた。 「由樹君の小さい頃はどんな感じだったんだい? 僕は昔の由樹君を知らないからな」 「至って普通の子供ですよ。よく公園に遊びに行ってました覚えがあります」 「光ちゃんとかい?」 「ええ、《確|・》《か|・》《そ|・》《う|・》《で|・》《し|・》《た|・》。家に俺と光だけのことが良くありましたから、公園に遊びに行っていたんですよ。そういえば光と砂場でお城を作ったこともあったっけ」 「由樹君は昔からしっかりしていたんだね」 「しっかりだなんて、今もできていませんよ」 「ふふっ、そういうことにしておくよ」  私は途中から会話が聞こえなくなっていた。  由樹と砂場でお城なんて作ったっけ?  記憶は劣化し、曖昧になっていく。  私の頭の中に由樹とお城を作った記憶はすぐに出てこなかった。  由樹のほうが記憶力いいし、多分そうなんだろう。私が忘れてるんだな。  そう自分の中で折り合いをつけ私はノートへと意識を戻した。  明後日は入学式。  まだ見ぬ高校生活にワクワクしつつ、ノートを見る。  ノートにはまだ何も書かれておらず  ――――――真っ白だった。
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