フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 結局、シンが拠点の洞穴に戻ってきたのは、夜9時頃だった。 「遅かったね。シン。何かトラブルでもあった?」  コルンは心配そうに話しかけた。 「トラブル……はなかった。戦闘は少しあったけどな。でも、かなりの成果が得られたはずだ」 「戦闘?大丈夫なの?一応修理キットの予備はあるけど」 「ああ。大丈夫だ。ほぼ傷はない」 「よかった。それじゃあ初日の報告会を始めよう。まずサキから」  このグループは、夜だけはこうして集まることが義務づけられている。そして、1日に起こったことの報告をし合うのだ。 「えっと、私は今日、Cグループと呼ばれている同盟に入ってきたわ。まだ10人にも満たなかった」  サキは報告をするが、依然シンとは目を合わせない。  俺、なにか悪いことしたかな…… 「やった!さすがサキだね。ここまで順調にいくと逆に怖いくらいだ」  次はシンの番だという風にコルンが合図する。 「俺がやったことは2つ。一つはこの特別訓練エリア全体のスキャン。もう一つは、Bグループの同盟、つまりバーブの同盟の居場所を突き止めた」 「えぇ!?」  コルンが珍しく興奮している。 「すごいよ二人とも!まさか初日に大きな同盟三つ全ての場所がわかるなんて!」  コルンの言い方が何か引っかかっる。サキも同じことを思ったのか、コルンに尋ねた。 「三つ全てってことは……あなたはAグループの居場所がわかったの?」 「その通りさ。そして加入してきたよ。これで明日からは、遠慮なく内部情報を盗聴できる」 「やったな、コルン、サキ。ところで、俺は同盟に入らなくてよかったんだよな?」 「そうだね。バーブの同盟は、リターンは大きいかもしれないけれど、入るリスクが高い。それでいいと思う」  シンは、戦闘の詳しい内容までは言わないでおいた。  その日の夜はそれっきり、特に変わったことは起こらなかった。  ◇  そして、次の日の朝。  朝食の堅いパンとスープを飲んでいるシンに、見張りを終えたサキが話しかけてきた。 「シン。話があるの」 「話?なにか大事なことなのか?」 「ええ。とても大事。今の私たちにとっては」  なにか有益な情報でもつかんだのだろうか。 「ちなみにコルンは?」 「もう行ったわ。Aグループは時折会合があって、呼び出されるみたい」 「わかった。それで、話って?」  そう返すと、サキは一度目を閉じ、大きく息を吸い込んでから言った。 『あなた、何者なの?』  シンは質問の意味が分からず、パンをかじったまま動きが止まってしまった。 「何言ってるんだ?さっぱり意味が分からない」 「実は、昨日の貴方の戦闘を見ていたの」 「へえ。それで?」  内面は焦りに焦っているが、外面は平静を装っておく。カマをかけている可能性もある。 「あなた、スピード型じゃないわよね」 「……………」 「だとしたら、あなたは何?昨日の戦闘では防御型の盾を使っていた。一昨日の戦闘ではスピード型のレア特技の【音速斬り】を使っていた。普通に考えてそんなことがあるはずがない」 「全部見たのか?」 「ええ。全部ね。私も、あとをつける気はなかった。けれど、たまたま行く方向が同じで、遠目に見つけた途端に戦闘が始まったわ」 「なるほどな」 「なるほどなって。それだけ?私に口止めするとかしなくていいわけ?」 「そんなことしないだろ?サキは。だからコルンがいなくなってから話したんだろ?」 「ええ。まあ……」 「それに、大丈夫だ。コルンにもサキにも、いずれは話そうと思っていたことだからな」 「じゃあ、あなたの戦闘タイプって……」 「悪いが、今はまだ言えない。とにかく、このことは今は2人だけの秘密だ。どこに盗聴器があるかわからないからな」 「ここで全てを言ってくれるのなら、2人の秘密にしようかと思ったけれど。意地でも言ってもらうわ。これは、今後に関わる重要なこと。3人の仲に秘密があって決裂するのはあなたに取っても不利益なはずよ」  どうやら、サキは是が非でも聞き出したいようだ。端末で、コルンを呼び戻しているのが見える。  しかし、問題はない。いずれ話そうと思っていたのは本当のこと。少し予定が狂ったが、支障はない。数分後、呼び戻されたコルンが顔を出した。 「一体どうしたの?緊急招集なんて」  コルンの顔は、見るからに焦っていた。 「コルン。今から、私たちの今後に関わる重要なことを話すわ。よく聞いて」 「重要なこと?シンは知ってるの?」 「知っているも何も、これは、シンのことなのよ」 「どういうこと……?」  それからサキは、先ほど俺に打ち明けたように、偶然見た俺の戦闘の話を、包み隠さず話した。 「それは本当なの?シン」 「本当だ。いつか言おうとは思っていたんだがな。まあ聞いてくれ」  2人の顔に緊張が走る。特にサキの方は、興味津々といった様子だ。 「実は、俺はスピード型じゃない」 「えっ!?」 「やっぱり……」  コルンは、今までに見たことがないくらい驚いているのに対し、サキはまだ続きを待っている様子だ。 「言うならば、俺は特殊型の中でも珍しいタイプ、”トレース型“だ」 「ト、トレース!?噂には聞いたことがあったけど、本当に存在するの?!」  今度はサキが興奮しまくっている。 「トレースの内容はよく知られていないけれど、文字通り敵の型、特技をコピーする特技なのかい?でもそれだけじゃじゃ勝てないよね?まさか、今まで見た特技全てをコピー?それは無理すぎる」  コルンは未だ半信半疑のようだ。 「そう。内容としては、敵の特技のコピー。さらに言えば、今まで、受けたことのある特技、技に限定される。見ただけじゃダメだ。ダメージを実際に受けるか、それを回避する。つまり、敵が意識的にこちらに特技を使った場合のみ自動でストックされる」 「それでも強すぎない……?」 「さらにもう1つ。特技は3つまでしかトレースできない。どういうことかというと、今まで経験した特技のデータの全ての中から、3つを選んでセットできる。一度セットすると、24時間後にしか変更できない。今セットしてる、【瞬間移動】、【大盾防御】、【大砲】の三つのうちどれか一つでも変更したら、明日のこの時間までスロットを変えられないってことさ」 「何それ……もうめちゃくちゃじゃない……」  サキは、この特技のチートさを笑うしかなかった。  しかし、コルンは違った。 「いや、確かに強い特技だけれど、無敵でもないんじゃないかな?だって、理想論で言えば、アーティーって、特技は15個くらいは最大で持てるはず。その場合かなりの不自由な装備になっちゃうけど。でも、シンは絶対に、3個しか持てない。サキ、今登録してる特技、何個ある?」 「えっと、【大防御】と、【銃弾乱射】、【盾突進】、【絶対防御】………合計8つね」 「僕は7つだった。だから、シンは、敵に”三つしか特技が使えない”ってことを知られたら、かなり不利な状況になるんだよ」  流石はコルン、この一瞬で弱点まで見抜いてしまうとは。 「そういうことだ。つまり、俺はいろんなタイプの敵と同時に戦うのは危険だし、早々に三つ出してしまったら、攻撃を見切られる可能性だってある」 「それでも、強いことには変わりないんでしょ?」 「まあ、それはそうだね」  サキとコルンは苦笑いしている。 「分かっていると思うが、これは他言無用だ。絶対に言うなよ」 「もちろんさ。この辺には盗聴器は仕掛けられていないはずだよ。見張りをしていて誰も近寄っていないんだからね。とりあえず、僕はそれを踏まえて改めて作戦を練ってみるよ。じゃあみんな、健闘を祈る」 「了解。また何かあったら連絡するわ」  こうして、2人は各自の持ち場へと出かけていった。  ふぅ……  洞穴にはシンのため息の音だけが響いた。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行