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「さあ始まりました! 魔力者大会団体の部! 今日一日司会を務めさせていただきますのはこのアタシ、多良見梅香でございます! どうぞよろしく!」  大きなモニターに映る、桃色の髪をした女性司会者がお辞儀をする。会場中で大きな歓声が沸いた。彼女は頭を上げると、席からぴょんと飛び降りて、フィールドの中心へと進んでいった。  この吹き抜けた円型の闘技場は、中心部が戦いをするフィールド、それを囲むように、高めの位置に観客席が並んでいる。モニターは闘技場の外壁の上に設置されており、その真下の観客席は、大会関係者の席となっている。梅香はまさにそこから飛び降りたのだ。 「それではまず、特別ゲストを紹介いたしましょう! 今回は、あの《澪咲|みおさ》神社の巫女・河東クウさんに来ていただきました!」 「どもーよろしくー」  モニターが切り替わり、長い黒髪の巫女『河東クウ』が映された。彼女は胸の辺りの高さで小さく手を振っている。 「では! 早速試合に移りたいと思います! 第一回戦目はなななんと! サバイバルレースでございます!」  また会場中で大きな歓声が沸く。モニターが切り替わり、上空から森を映していた。 「各チームスタート地点は別ですが、森の中心部にあるゴールにたどり着いた先着八チームが、次のステージへ上がることができます!」  モニターが八分割でそれぞれのチームを映し出す。緊張した面持ちでいる者もいれば、気楽に喋っている者もいる。最後に、画面は再び梅香を映した。 「それでは参ります! よーい……スタートォ!」  乾いたピストルの音が、画面越しに鳴り響いた。  一回戦目の試合はサバイバルレースである。闘技場とはまた別の場所にある、森の特設ステージで行われる、二人一組での戦いだ。それぞれのチームは、ゴールを中心とした円周上のスタート地点から始まる。もちろん、ゴールは森の中心部である。上位八チームが次の試合へいけることになっている。 「健治、なんでこのペアにしたの?」  闘技場の観客席にいる蘭李が、冊子を見ながら呟いた。右隣に座る白夜はそれを覗き込む。そこには、出場メンバー名が一覧で載っていた。  一回戦目に出場したのは、槍耶と海斗だ。彼女にとって、この二人の組み合わせは珍しかった。左隣に座る健治は、少しはにかんで答える。 「サバイバルレースは戦いというより、いかに地の利を得るか、じゃない?」 「えー? だから土属性の槍耶と、水属性の海斗?」 「雷属性のスピードを生かせる君と迷ったけど、二人一組ってところで思い止まってね」 「なんで?」 「君だけ先にゴールしても意味無いからね。それに、やっぱりあの二人にしておいて良かったよ。まさか君が魔法を使えないなんて、その時は思ってもみなかったからね」  皮肉混じりに、健治は笑って言い放った。言われた蘭李は、鋭く彼を睨み付ける。 「ごめんごめん」  素直に謝る健治に、蘭李はそっぽを向いてしまう。そんな彼女に、白夜の後ろに座る紫苑が異議を唱える。 「無理無いだろ。魔力者なら普通に魔法使えるって思うだろうし……」 「しかも魔具だもんなぁ」 「だからコノハが使えるって言ってるのに……」 「まあまあ」  少しだけ怒りを帯びた言葉を吐き出す蘭李を、紫苑の隣に座る雷がなだめる。小さい子供にするように、頭をポンポンと叩いた。 「それにしてもこの服、本当に血とか落ちるの?」  雷が蘭李の頭の上に顎を置いて、健治の方を向いた。  蘭李達は今、黒を基調とした魔法道具を身に付けている。つまり、服が魔法道具ということだ。  健治が夏に依頼したもの。その正体こそがまさにこれだった。健治は夏に、『蘭李達六人の戦闘服』を頼んだのだ。しかしだからと言って、ガチガチの鎧等を頼んだわけではない。汚れても落ちるような服を頼んだのだ。  戦うということは、少なからず傷付け傷付けられるということ。そんな状況下で、蘭李達に学校の制服などで戦われては、躊躇いが生まれる可能性がある。特に蘭李の家庭は一般人なので、親を通して警察沙汰になるかもしれない。そこで健治は、この服を依頼したのだ。  基本、各々の瞳と同色のシャツを着て、その上に黒い上着を羽織っている。下は、雷以外はズボン、彼女のみはスカートとなっている。蘭李、雷、紫苑は黒い手袋をつけている。上着もズボン・スカートも手袋も靴も、全て端はシャツの色でライン装飾されている。 「落ちる落ちる。疑うなら試してみなよ」 「痛いよ」 「どーやって落とすの?」 「自分の好きなタイミングで落とせるらしい。『落ちろー』とか念じるんじゃないかな」 「そんなテキトーなの!?」 「魔法道具って案外そんなもんだよね」 「たしかに」  白夜と紫苑が頷く。蘭李は「う~……」と小さく唸りながら、モニターに視線を移した。ちょうど槍耶と海斗が映っていた。二人は薄暗い森の中を駆けている。 「おっ! 槍耶と海斗じゃん! 頑張れーっ!」 「本当だ!」 「躊躇いもなく走ってるけど、ちゃんとゴールに向かってるのか……?」 「そこは大丈夫じゃない? 槍耶頭良いし」 「他人事だなぁ雷さん……」  白夜は苦笑いをして雷を見る。彼女は舌を少し出して誤魔化した。 *  森の中を駆け抜ける。当然道は整備されておらず、たまに大きめの石を踏みつけ体がよろけた。しかしさほど支障は無い。俺と海斗は、薄暗い森の中をひたすら走っていた。  方向が合っている自信はある。とはいえ景色が全く変わらない為、多少の不安もあるのは事実だ。 「あっ!?」  スタートしてから数分、俺達は初めて足を止めた。目の前に広がる水。そう、川がそこにはあったのだ。  息を整えながら岸に近付く。海斗がしゃがみこみ、目を凝らして真っ青な水を見下ろした。かなり幅のあるこの川の水は、川底まで見える程透き通っていて綺麗だ。しかし、魚は泳いでいない。 「舟も橋も無さそうだし……泳いで渡るか」  そう言いながら俺は体をほぐし始めるが、海斗はバッと右腕を水平に上げた。 「駄目だ。この水には、毒が入ってる」  海斗はこちらを振り向かずに言い放った。その言葉に俺は目を見開く。  予想もしなかった言葉だ。まさかこんな綺麗な川に毒なんて―――息を呑んだ。海斗は少し静止し、すくりと立ち上がった。 「ちょっと手荒だが……」 「ちなみに、その根拠は?」 「見たまんまだ。水属性の奴なら全員分かる」 「マジか……」  海斗は腰に提げていたホルスターから拳銃を取り出すと、銃口を川に向けた。パン、と乾いた音が一発。銃弾が水面に触れると、それを中心に水が円状に氷に変わっていった。 「ええッ!? お前そんなこと出来んの!?」  俺が叫ぶと、海斗は当たり前のように吐き捨てた。 「水属性なら全員出来ると思うが」 「え……水属性有能過ぎねぇ……?」  羨ましい程だ。俺にもそんな力が欲しいものだよ。  流石に一発では川全ての水は凍っておらず、しかし海斗はギリギリ立てる程の氷にピョンと飛び乗った。続けてまた弾丸を放ち、凍ったそこに飛び乗る。  凍っても毒の効果は残っているかと心配したが、大丈夫みたいだ。流石は海斗だ。俺も海斗に続いて、氷の上を渡った。  しかし……いくら死なない大会だからって、こんなことも仕掛けてくるなんて……。  この魔力者大会団体の部の試合では、必ず『生命原石』が参加者に配られる。生命原石はその名の通り、生命を司る石。と言っても、膨大な生命エネルギーがあるわけではなく、治癒能力に長けた石らしい。  例えば、石を持った人間が心臓をひと突きされる。普通なら死亡するところだが、石の魔力によって一瞬で治癒されて生存するらしい。  にわかに信じがたい。健治さんから渡されたこの服といい、魔法は何でもありなのだろうか? 「早く行くぞ」  先に岸で待っていた海斗がそう言い放つと、くるりと踵を返して走って行ってしまう。置いていかれないように、俺も岸に降り立つと走って追いかけた。  海斗は強さにこだわりを持っている。それなりに魔力者として良い家系出身でもあり、幼い頃から戦う術を身に付けているからだろうか。とにかく強くなりたいらしい。  強くなれれば手段は選ばない。いつか海斗はそう言っていた。現に俺達六人の中で一番強いというのに、本当に凄い向上心だと思う。だからこの大会にだって、何の文句も言わなかった。というより、ずっと出たかったらしい。  そして念願叶って本日……と言いたいところだが、唯一の不満は一回戦目に回されたことらしい。  この一回戦目は純粋にゴールまでの速さを競うもので、つまり基本的に誰かとの戦闘にはならないのだ。俺としてはそれで良かったけど……勿論海斗には物足りなく、しばらく舌打ちをしていた。しかもその度に健治さんを睨み付けながら。初めは銃を取り出して発砲しようとしていたもんだから、まだ良い方だ。  そんなわけで海斗は、早くこの試合を終わらせたいのだ。  実はそれには俺も賛成だったりする。  今週末、学校でテストがある。しかも結構重要な。そのせいで今日までの特訓もほとんど行っていない。  俺としては早くこの試合を終わらせて、先に帰って勉強したいわけだ。まさかこんな形で海斗と利害が一致するとは思わなかったが、これも不幸中の幸いか。きっと雷辺りには「今日くらいいいじゃーん!」と言われそうだが、この予定を変える気は全く無い。  そんなことを考えながら走ることおよそ二十分。まだゴールは見えず。俺達は立ち止まった。  おかしい……いくら何でもこんなに遠くなかったはずだ。もしかして……と考えたくないが……。 「なあ………道、外れたか……?」 「それは無い」 「な、なんでそんなに自信が?」 「お前が出した結論だからだ」  さらりと言い放つ海斗。俺はポカンとしてしまった。  こ、こんなに海斗から信用されていたのか……俺。なんだか少し嬉しいな。小恥ずかしくなって人差し指で鼻の下を擦った。 「でも……じゃあなんで……」 「何かのせいだな」 「何か?」 「ああ。しかもお出ましのようだ」  海斗が斜め上を見上げる。その先を見ると、太い木の幹の後ろから、巨大な蜘蛛が現れた。およそ自動車と同じくらいの大きさはあろう黒い巨体。蜘蛛は黄色い目玉で俺達をギョロリと見た。海斗は銃を、俺は背に掛けていた槍を手に持つ。 「成る程成る程……貴様には確かに迷いが無い」  しゃがれた男の声。俺でも、ましてや海斗の声でもない。ということは、この蜘蛛の声なのだろうか……? 「だが………貴様には大きな迷いが有るようだな」  蜘蛛は足の一本を俺に指した。黄色い目玉も俺に向けられる。  俺に……迷いがある? 「何を言って……」 「『こんなことをしている場合じゃない。早く帰って勉強しなければ』」  突然のその言葉に、俺は驚きを隠せなかった。蜘蛛は続けて言う。 「『そもそも五人チームなら、俺がいなくても良かったじゃないか。早くこんな大会終われ』」  海斗が横目で俺を見る。海斗も気付いたみたいだ。  蜘蛛が言っているその言葉。それはまさに―――俺が思っていたことだった。蜘蛛は心を読めるらしい。一番敵に回したくないタイプだ。 「………そうだよ。俺はそう思ってる」  潔く認めた。それは海斗にも分かっていたことだし、今更な話だ。俺は蜘蛛を睨み付ける。 「だから何だ? そんなこと―――」 「『でも、最後まで大会に参加していたい』」  瞬間、俺の体は硬直した。蜘蛛はじっと俺を見ている。 「『沢山の魔力者が見られるなんてそうそう無い。皆とチームで戦えることなんてのも無い。それに―――』」 「やめろッ!」  そこで言葉を遮るように、思いっ切り叫んだ。その後に続く思い当たる言葉は、絶対に口に出したくないものだった。しかし蜘蛛は躊躇わない。真っ直ぐに俺を見ながら言い放った。 「『やっぱり俺も、魔力者として生きていきたい』」  全ての時が止まったように思えた。今日は無風だが、それが余計にそう思わせた。スルリと手から槍が落ち、どさりと音を立てた。海斗も俺を見ているような気がするが、確認は出来ない。  言われてしまった。自分でも言いたくなかった言葉。決意を揺るがせる言葉。  でも、心の奥底に根付いていた言葉。  俺の家系は、所謂「普通」の魔力者の家系だった。母親は魔警察だったが、父親は魔力者ではなく人間としての生活を選んだ。ちゃんとそれで成功もしてるし、俺にも不自由無い生活を送らせてくれている。  そんな父親にも憧れたが、俺はやはり母親の魔力者としての生活の方に憧れを持っていた。魔警察に憧れてたのかもしれない。しかし、魔法を使って戦い、そして仕事を遂行するその姿に、俺は強く惹かれた。いつか自分もそんな風になりたいと思った。  だけど、俺はある日からそう思うことをやめた。  魔警察である母親が、殉職したのだ。  魔警察である以上、死は付き物。頭では理解していたが、いざそれに直面すると整理が追いつかなかった。  母親は、捕まえるはずの犯人に、見るも無惨に殺された。それは仲間の裏切りや犯人に大勢の仲間がいたからではなく、単純に力量差だった。  俺はその時思った。やっぱり俺の家系は普通の魔力者なのだと。俺はこんな風には死にたくないと。こんなに無惨に殺されたくないと。  ――――――それならば、無理して魔力者でいる必要も無いと。  だから俺は、父親のように人間として生きていくことにした。職業によっては危険なものもあるが、魔力者でいるよりずっと安全だ。  しかし―――海斗達と出会ってから、やっぱり魔力者として生きていきたいと思うようになった。小さなことだったけど、皆で戦ったのは楽しかった。出来ることならこのままでいたいと思った。  けれど、時は流れる。大人になって食べていけるようにもならなきゃいけない。  だから魔力者の道を断つように、俺は進学校に入学した。そうすれば否応なしに勉強させられ、そういう道を進むだろう―――そう思っていた。 「迷うことは決して悪くない。むしろ人は迷わなければならない」  蜘蛛は木の幹をぐるりと回った。カタカタと鳴らすその音は、まるで俺を嘲笑うようだった。  そこに一発の銃声と銃弾。弾は木の幹に食い込む。左を向くと、海斗は蜘蛛に銃口を向けていた。先端からは硝煙が微かに昇っている。 「槍耶。とにかく今はここを抜けることだけを考えろ」 「抜けることなど出来ない。迷いを捨てない限りはな」 「なら捨てればいい」  海斗は何発も弾を撃つ。しかしどれも蜘蛛には当たらない。海斗は舌打ちをした。 「お前がどんな悩みを持ってるのかなんて知らないが、本当にやりたいことは何なのかだけは明確にしとけよ」  海斗が撃ちながら言い放つ。蜘蛛の嘲笑う音と銃声が入り交じった。  本当にやりたいこと……?そんなの……そんなこと分かっている。 「出来ることなら俺だって……魔力者として生きていきたいよ」 「じゃあ何で躊躇ってるんだよ。この大会にも出ておきながら」 「それはッ………」  ――――――この大会は死なないから。  ――――――死ぬのが怖いから。  なんて言えなかった。きっと海斗は「そんなの当たり前だ」とあしらうだろうから。  そんな俺の心境をも読んだのか、蜘蛛がおもむろに大きな目玉をこちらに向けた。 「私が代弁してやろう」 「ッ!? やめろッ!」 「『死ぬのが怖い。母のように死ぬのだけは嫌だ』」  海斗の引き金を引く手がピタリと止まった。沈黙が流れる。ただただ、蜘蛛の嘲笑だけが森の中で響き渡った。  しかし突然、海斗はフッと笑い、そのままクックッと笑いだした。  突然だし予期していなかったことだったので、俺は思わず唖然とする。蜘蛛の動きも止まった。 「お前でもそんなことで怖がることもあるんだな」 「は……?」 「だってそうだろ? 計算高いお前が、とんでもなく確率の低い事柄に振り回されてるんだ」  海斗は、銃を構えていた腕を下ろす。そのままそれを、腰のホルスターにしまった。  確率の低い……事柄? 死ぬことが? 「何言ってんだ……魔力者である限り、常に死と隣り合わせだろ?」 「そうだな。だけど俺達は今まで生きてきただろ」  海斗は笑うのをやめ、俺に鋭い視線を向けてきた。海のように真っ青な瞳は、眼鏡のレンズ越しに俺を捉える。 「俺達は今まで死なずに生きてきた。隣り合わせなのになんでだろうな?」 「それは……まだ子供で魔力者らしい仕事なんてやってないから……」 「それは違うだろ」  更に視線は鋭くなる。俺はその圧力に圧され、少し後ずさった。 「白夜はモノノケ退治、雷は光属性としての仕事、そして俺は強くなるために進んで汚れ仕事を受けている」 「ッ………」 「蘭李なんて、死ぬって言われてんのに悪魔退治に加担してるんだぜ? でもそれは正しいと思う」 「………なんで?」 「待っていたら死ぬだけだからだ。それこそ、死と隣り合わせだからな」  海斗は、視線を蜘蛛に移した。蜘蛛は、煩かったのが嘘みたいに、静かに話を聞いていた。  ――――――分かっている。白夜も雷も海斗も、危ない戦いをしていることは。子供だからって許されない仕事をしているって。  でも―――でもそれは……。 「海斗達は………強いから」 「だからお前も強くなればいいだろ。馬鹿みたいなこと言うなよ」 「簡単に言うけどな……! 俺は海斗達みたいに才能があるわけじゃないんだよ」 「―――――誰に才能があるって?」  海斗にギロリと睨まれた。今まで向けられたことのないような眼差し。瞳に広がる大海原は、まさに怒りを帯びていた。 「お前、まさか俺達が努力無しで強いとでも思ってるのか?」 「そうじゃない……けど、少なからず俺よりは才能があるだろ!」  海斗がずかずかと近付いてくる。どうやら俺は海斗の逆鱗に触れたらしい。だけど俺だってここで折れたくない。海斗は俺の胸ぐらを掴み上げた。 「俺が今までどれだけ努力したか分かってんのか……?」 「分かってるよ!」 「分かってねぇよッ! 昔の俺がどれだけ弱かったか知らねえくせにッ!」  海斗は思い切り叫んだ。敵である蜘蛛に背を向けているというのに、お構い無しだ。こんなに感情的になっている海斗を見るのは初めてで、俺は目を見開いた。海斗は乱暴に手を離すと、長く息を吐き、静かに口を開いた。 「………俺は、人を殺すのはおろか、まともに弾すら当てられなかった。同い年の奴等はバンバン当ててるのにだ」  でも今じゃ当たり前のように当てられるし殺すことも出来る。  それは何故か? もちろん、努力したからだ。 「ずっと言われてきた。『このままじゃお前は早死にするだろう』と。だからというわけじゃないが、必死に特訓して強くなった。そして俺は、今まで死なないでいれた」  俺は何も言えなかった。もちろん海斗が努力していることは知っている。けど、元々の強さがあったものだとずっと思っていた。今現在が物凄く強いからだ。  海斗が大袈裟に言っているとは思えない。こいつは嘘も誤魔化しもしない。良くも悪くも、いつでも正直だ。  ――――――だからこそ、説得力があった。  俺は自分の右手を見つめた。小刻みに震えている。 「………俺も強くなれるとは思えないよ……」 「何でだよ。お前、努力家だろ? やればやるだけ報われるんだ」  やるだけ報われる。勉強が辛い時、何度自分に言い聞かせたか分からないくらいの言葉。そのお陰で折れずにやれてきた。  そして、経験者から聞かされるほど真実味のある言葉でもある。  もしそれが、本当に魔力者にも当てはまるなら……。 「俺も……強くなれるかな」 「何度も言わせるなよ」 「海斗みたいに……」 「俺だって常に上を目指してるんだ。簡単に追い付けると思うなよ?」  海斗がフッと笑った。その顔を見て、じんわりと目に涙が溢れてくるのが分かる。  追い求めてはいけないと、ずっと言い聞かせていた。死ぬ間際、必ず後悔するだろうと思っていた。  でも、それはやめよう。例え死ぬ時でも、「この道を選んで良かった」と思えるような生き方をしよう。  そんなこと出来るのかなんて半信半疑だけど、きっと海斗達がいてくれれば、大丈夫な気がする。  根拠の無い自信なんかじゃない。  何せ、経験者であり親友が言ってくれたからな。 「すぐ追い付いてやるさ」  俺はニッと笑って見せた。その瞬間、幹に張り付いていた蜘蛛がボンと煙を上げて姿を消した。 「蜘蛛が消えた……?」 「お前の迷いが消えたからだろう。これで多分迷わずにゴールにたどり着ける」  海斗が俺の顔を見る。俺は指で涙を拭った。 「行くぞ」 「おう!」  俺達は、ゴールを目指して再び走り出した。
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