フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 放課後。  桃華は拓真に誘われて、近所のコーヒーショップにいた。拓真たっての希望で、本格派なコーヒーを飲みたいからとコーヒー豆を焙煎しているお店に足を運んでみたのだ。もちろんコーヒーも淹れてくれる。桃華と拓真はコーヒー豆の焙煎されたいい香りのする店内で、アイスコーヒーを注文していた。  拓真はいつも以上に桃華へ甘えてくる。 「ねー桃ちゃん、宿題やった?」 「終わったよ。補習の合間にちょこちょこやったから」 「すげー。俺まだ残ってるよ」 「大体、補習で出たとこしか課題出てないから、補習と一緒に進めれば復習になったのに」 「そうなんだー。へー」 「へー、じゃないよ、ちゃんとやりなさい」 「はーい」  そこへ、注文したアイスコーヒーがやってきた。桃華と拓真はガムシロップとミルクを入れて一口飲む。  キーンと冷たい。喉から爽やかな香りが鼻に抜けてくる。美味しい。 「美味しいねー、桃ちゃん」 「美味しいねー」  のほほんと二人はコーヒーを堪能する。冷房の効いた室内、キンキンに冷たいアイスコーヒー、そして追加注文したクッキー。本当に癒される。  そう言えば。拓真に告白されていることを桃華は思い出した。大学に入ったら考える、と言っていたが——よりによって、純にも告白されていた。  どちらを選ぶか? そう問われると、桃華は非常に困る。先に告白してきたのは拓真だし、拓真はいい子だ。ちょっと抜けているところも愛嬌があって可愛い後輩だ。ただ、桃華をヒーローのように崇めているところもあって、正直そこは少しだけ敬遠したい気分だ。  片や、純は生まれたころからの腐れ縁で、お互い何でも知っているが、小学校のいじめ事件以来、高校の入学式まで口も利いていなかったわけで——小憎たらしい性格は相変わらずだし、まだちょっと桃華は純に対し苦手意識がある。それはまあ、トラウマのようなもので、純が悪いとも言い切れないことだからいい。  じゃあ改めて、どちらを選ぶ?  ——選べない。  桃華は落ち込む。  私、そこまで悪い女だったっけ? どっちの思いも無下にしたくないだけなのに、決められない。  ああ、何か目の前が滲んできたなぁ。 「桃ちゃん、桃ちゃん?」  桃華は呆然としながら、拓真の呼ぶ声に反応できなくなっていた。 「桃ちゃん、何で泣いてるの?」 「え?」  泣いてる? 桃華は自分の両目を擦る。なぜか、涙が溢れていた。 「どうしたの? お腹痛いの?」 「そ、そんなわけ、ないじゃん。何でだろ」  桃華は焦った。なぜ焦るのか、自分でもよく分からない。  悲しい気持ちだった。自分にも腹が立つし、よく分からない気持ちが心の中に渦巻いていて、この気持ちをどうすればいいのか見当もつかない。  しょうがない。桃華はアイスコーヒーをズビッと飲む。甘い。ちょっとガムシロップを入れすぎた。  拓真は心配している様子で、桃華をじっと見ていた。  そして唐突にこう言った。 「桃ちゃんさ、好きな人いる?」  桃華は間抜けにも「ほえ?」と言ってしまった。ほえって何だ、ほえ。 「いや、ほらね? 困らせちゃったのかなぁ、と思って」 「好きな人なんていないよ!? 全力で否定できるね!」 「そっか、なら良かった」  桃華は、嘘は吐いていない。ただ、拓真と純を裏切っているような気がして、どうにも胸のつっかえが取れない。  ——初恋もまだなのに、何をやっているんだ、私は。 「桃ちゃん、桃ちゃん」 「何!?」 「えっ、めっちゃボロボロ泣いてるよ?」 「これは自責の念からですー!」 「何の!?」  拓真は通学鞄からティッシュを取り出し、桃華に渡す。  桃華はティッシュを受け取り、涙を拭いてズビーっと鼻をかむ。ちょっと拓真も引いていた、乙女のプライドはズタズタだ。  しばらくして、拓真から話を切り出した。 「やっぱり、好きな人いるんでしょ?」 「いないよ……告白されたの初めてだし」  そう、初めて告白されたからこそ拓真を無下にできないし、純にまで告白されるとは思わなかったから、尚のこと混乱している。  何だか、どっちも桃華の意思を尊重しているようで、桃華に丸投げしているようにしか思えなくなってきた。  そう思うと、桃華の中でふつふつと怒りがこみ上げてきた。 「もう!」 「ど、どしたの?」 「拓ちゃんはどうなの!? 私のこと好き!?」 「えっ、好きだけど」 「だったら何でもっと積極的にならないのー!」  根本的な問題はそこだ。桃華は二股がしたいわけじゃない、好きだと相手が言ってくれたなら応える意思だってある。だけど、その好きはどの程度のものなのか、ただ単に高校生の青臭い好きなのか、結婚まで考えた好きなのかで反応が全然違ってくる。  こうなったら、純にも聞いてやる。 「拓ちゃん、私、結婚を前提にしたお付き合いしか認めないからね!」 「ええっ!?」 「何!? 文句ある!?」 「えーと、高校生で結婚まで考えるのはちょっと難しいよ、桃ちゃん」 「はい、アウト!」 「アウト!?」 「純にも聞いてやる!」 「何で純先輩!?」  桃華は勢いのまま、スマホの通話ボタンを押した。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行