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「まずは魔法じゃない?」  次の日の学校。蘭李は白夜に諸々のことを話し、相談していた。もちろん、どうすれば強くなれるか、ということをだ。蘭李は最低でも、白夜達五人に勝てるようにならなければ、強いとは認められない。その本人達にまず訊くのが一番早い。彼女はそう思ったのだ。 「コノハがいないってことは、お前が魔法を自由に使えるってことじゃん。だからまずそこからやれば?」  白夜は机上で頬杖をつきながら言う。そうだよね、と納得する蘭李に、さらに続けて言った。 「あとは基礎体力じゃない? お前体力無いし、筋トレとかもしてないでしょ」 「えっ、ハクはやってるの?」 「一応ね。モノノケとか相手にしてるし。やんないとすぐ殺されちゃうしね」 「そっか……」  やっぱり努力してるんだ。あたしも頑張らないと―――蘭李はメモ帳に、ひとまずやらなければならないことを書き込んだ。 「コノハ没収はあんまり良いとは思えないけど、コノハ無しで強くなるっていうのは、やっぱりやっといた方が良いと思うぞ」  白夜が横目で見ながら呟いた。直後、動かしていた蘭李の右手がピタリと止まった。白夜は目を細める。 「今までコノハ使えないって時無かったの?」 「……………あったけど……」 「そん時どうしてたの?」 「…………………忘れた!」  蘭李は突然、席から勢いよく立ち上がった。怪しむような視線を送ってくる白夜に背を向ける。 「トイレ行ってくる!」 「え、ああ……うん」  そのままスタスタと歩き、蘭李は教室から出ていってしまった。白夜はそんな彼女の背中を、しばらく不思議そうに眺めていた。 * 「初めて使うには上手いと思うよ? ただ、体がついていけてない」  放課後、皇家のトレーニングルーム。そこで蘭李は、槍耶を除いた四人と戦った総評を健治からもらっていた。戦績は当然全敗である。  彼女はまず、魔法をものにしようとした。雷属性は敵に電撃を放つよりも、自身の身体にまとい、動作のスピードを上げた方が良いと一般的に言われる。そこで蘭李は足に魔力を集中させ、足を速くしたのだ。 「せっかく一瞬で間合いを詰めても、そこから攻撃までの動作が遅いと、結果同じになるよ?」 「分かってるんだけど………」  蘭李はやっと息を整え、水を飲んだ。冬だというのに彼女は頬を真っ赤に染め、たくさんの汗をかいていた。  ちらりと蘭李が目をやる。トレーニングルームの真ん中では、蜜柑と睡蓮が戦っていた。と言っても彼らは実体ではないし武器なども持てないので、エアー殴り合いとなってはいるが。審判は秋桜が務めていた。 「一気に来られてやべってなったけど、なんか少し隙があったよな」 「うんうんそれ思ったー」  相手をした白夜達は疲れてはいるものの、まだまだ余裕そうだった。その背後には、観戦している夏とコノハが見える。蘭李は一瞬コノハと目が合うが、すぐに逸らしてしまった。 「なんですぐ剣振らないんだ?」 「え………いや……だって………」  紫苑に聞かれ、少したじろぐ蘭李。皆の視線が自分に集中していることに気付き、彼女はヘラッと笑ってみせた。 「実は……ちょっとこわいんだー」  ――――――はあ?  全員が口を揃えて言った。その威圧に圧され、蘭李は少し後ずさった。 「いやだからね? ホラ、剣当たれば相手傷つくじゃん?」 「大会で普通に戦ってただろ」 「あれは生命原石があったから……」 「特訓は木刀でやってるから、血とか比較的出ないよ?」 「木刀でもホラ……ヘタしたら死んじゃうじゃん?」  沈黙が降りた。体は硬直し、止まったはずの汗をダラダラとかき始める蘭李。 だから言いたくなかったんだ! 早くこの空気どうにかなれ!―――彼女は一心にそう願っていた。 「………お前、魔力者やめれば?」  沈黙を破ったのは、海斗だった。全員彼の方に視線を向ける。 「要は殺すのが怖いんだろ? ならやめろよ」 「やっ、やめないよ! ていうかやめたとしても、あの悪魔が狙ってくるんだから……」 「じゃあ躊躇わずに武器を振り切れよ。そんなんで俺達に勝てると思ってるのか?」 「そんなの分かってるよ!」  蘭李が海斗に飛びかかろうとする。すかさず白夜と雷が止めた。蘭李は真っ直ぐに海斗を睨み付けている。海斗も負けじと睨み返している。 「でも最初は普通、みんな怖くなるでしょ!? あたしは家族で唯一の魔力者だし、そんな訓練受けてないんだよ!」 「最初? 馬鹿抜かせ。いくらお前でも、今まで何度も戦ってきただろ」 「ッ~~!」 「二人とも落ち着きなよ!」 「落ち着いてないのはこいつだけだろ」 「誰のせいだよッ!」  じたばたと暴れる蘭李を、白夜と雷は必死に押さえつけた。紫苑も、海斗が変なことを仕出かさないか不安そうに見守っていた。  やがて諦めたのか、蘭李は暴れるのを止めた。二人がそっと彼女を解放する。蘭李は、俯いたままぼそりと呟いた。 「殺すのが怖くて何が悪いんだよ……」 「悪くはないと思うよ? ただそうすると、殺しとは別の実力が必要になってくるけどね」  健治が蘭李の頭にポンと手を乗せる。 「殺さないんだったら、違う意味での勝利を狙わないと。例えば、捕獲するとか」 「だけど普通、そっちの方が難しい。捕獲するということは、相手を殺したら駄目ということだからな」 「そう。生け捕りにしなくちゃならない。その為には加減をしなくちゃならない。でも、死なれても逃げられても駄目だ。だから捕獲っていうのは難しいんだよ」 「んで、お前にはそれが出来るのかよ」  蘭李は唇を噛み締めた。未だ俯いたまま顔を見せない。海斗は呆れたように深いため息を吐いた。 「少し現実を見ろよ。あーだこーだ言い訳するから何時まで経ってもお前は弱いんだよ」 「ちょっと海斗……!」 「今のお前の実力で捕獲なんて出来ねぇ。なら敵を殺すしかねぇ。それなのに殺したくないだとか抜かしやがって……」  海斗がズカズカと歩き、無理矢理蘭李の胸ぐらを掴み上げた。紫苑達の止めも聞かず、彼は顔を蘭李に近付けた。 「てめぇ戦いなめてんじゃねぇぞ……!」  海斗は深海のような瞳で蘭李を睨み付けた。  しばらく沈黙が続いた。誰も海斗を無理矢理蘭李から引き離そうとはしなかった。  やがて彼は手を離し、蘭李を解放する。しかしその直後、蘭李が海斗と全く同じように、彼の胸ぐらを掴み上げた。一瞬驚く彼に、彼女は静かに言い放った。 「なめてなんかない……なめるはずないだろ……!」  黄色く光る蘭李の瞳も、激しい怒りを帯びていた。 「実力が無いのは分かってる……だから今特訓してるんでしょ……!? それなのに……出来ないとか言いやがってェエエ!」  蘭李が掴んだまま、海斗を思いっきり押し倒した。背中を勢いよく打ち付ける海斗の上に乗る蘭李。白夜達は蘭李を離そうと手を伸ばすが、激しく抵抗されて弾かれてしまった。 「やれば出来るようになるだろッ!?」 「なら文句言わずに言われたことをやれよッ! てめぇはいつも言い訳ばっか言ってんじゃねぇかッ!」 「言ってないッ!」 「やーめーなって二人ともッ!」 「そうだぞッ!」  興奮する蘭李と海斗をなんとか引き剥がす白夜達。かつてないほどの喧嘩で、彼らは二人に不安な視線を送っていた。  海斗は舌打ちすると、自分を掴まえている紫苑に解放するように言う。紫苑は戸惑いながらも、しぶしぶ手を離した。離れるやいなや、海斗はスタスタと部屋から出ていってしまう。紫苑は急いでそれを追いかけた。  一方蘭李も解放されたが、睨み付けるような目で海斗の行った出口の方を見ていた。雷がおそるおそる彼女に問いかける。 「蘭李どうしちゃったの? 海斗もだけど、蘭李も蘭李らしくないよ?」 「………あたしらしくない?」  雷に言われ、振り向いた蘭李。鋭い目付きなのは変わらなかった。 「コノハを取り上げられても、あたしらしかったらおかしいでしょ」 「そうじゃなくて……ピリピリしてるっていうか……」 「そりゃあ雷属性だからね」 「………笑うところ? これ」 「そうじゃなくてぇ!」  険しい顔で冗談を言う蘭李に、笑いそうになる白夜と、困り果てる雷。そんな彼女らを見ていたコノハは、不思議そうに首を傾げた。 「……今、僕の名前言ってた?」 「………ううん。気のせいだよ」  隣の夏の顔を見るコノハ。淡い緑色の瞳は穏やかな、しかし辛そうな色を帯びていた。彼は再び蘭李に目を移す。彼女も部屋から出ていくところだった。その横顔を眺めながら、彼は思う。  ――――――なんて弱いやつ。
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