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「何があったのじゃ!」  白夜にずんずんと詰め寄る蜜柑は、ぶつかるほどに顔を白夜に近付けた。白夜は体を少し後ろへ傾けながら、蜜柑を両手で静止させる。彼女の顔はいつものふざけた様子とは違い、真剣な面持ちだった。 「説明しろ!」 「私にだって分かんないよ……」 「チッ……!」  蜜柑は舌打ちすると、足を床から離した。ふよふよと体が漂い始める。その後ろには、白夜を不思議そうに眺める紫苑と雷がいた。  白夜達は昨夜のうちに、昨日起きた出来事をメルから聞いていた。そして翌日の今日、蘭李が入院する病院に集まっていた。彼女と喧嘩している海斗もである。白夜は、何か真剣に考えているような蜜柑を見上げた。 「ていうか昨日、蜜柑さん達蘭李の傍にいなかったの?」 「市場にミカンを見に行っておったわ!」 「…………」  守る気あるのかこいつ。白夜は、そんな視線を蜜柑に送った。 「蘭李も心配だけど……コノハもどこ行っちゃったんだろうね」  雷がぼそりと呟いた。室内に沈黙が降りる。  蘭李だけならまだしも、コノハまで予想外の行動をしては、いよいよ終わりを考えてしまう。  蘭李の先祖達が言った、「もうすぐ死ぬ」という彼女の運命のことだ。 「やっぱ俺達も探した方が……」 「それは健治とメルに任せた方が早いって。それより私達は、蘭李のことを考えなきゃ」  白夜がガラスの向こう側を見る。紫苑達もそちらに目をやった。蘭李は相変わらず機械に繋がれ眠ったままだった。  白夜達が考えなければいけないこと。それは、何故蘭李の魔力が突然増え始めたのか……ということだった。  昨日蘭李を治療した医師の『滝川若俊』は、頼まれていた検査結果を健治に渡した。その書類を見て、健治は目を見開いた。結果は陰性。つまり、蘭李は悪魔に何もされていなかったのだ。 「本当に悪魔に何もされてないの?」 「ボクの検査にいちゃもんつけるのか?」  椅子の上で優雅に足を組む若俊が、雷を睨み付けた。雷は一瞬怯んだように固まり、誤魔化すように苦笑いをした。若俊はデスク上の書類を一枚取り出し、それを彼女達に突きつける。 「検査は正常だ。彼女は誰にも何もされていない。勿論、魔力を無理に封じ込められた以外には。すなわち、彼女の魔力急増の原因は他にある」 「それは検査とかで分からないんですか?」 「病気なら分かるが………ハッキリ言って、これは病気じゃないだろうな」 「なぜそう言える!」  今度は若俊に詰め寄る蜜柑。しかし当然彼には無意味な行為だ。白夜達も彼を見た。彼は書類をファイルに入れる。 「魔力がキャパシティ内に収まらずに暴走する病気はある。しかしそれは先天性の病気で、その子は生後一日も生きられずに亡くなる。魔力を暴走させ続けてるんだ。とてもじゃないけど体が持たない」 「後天性の事例は無いのか?」 「聞いたこと無いな。可能性としてはあり得るだろうが、その場合でも体が持たずにすぐ亡くなるだろう。治療法も当然無い。今彼女が生きてるのは、あの機械で魔力吸収と治癒を同時に行っているからだ。応急措置に過ぎないがな」  蜜柑は「ぐぬぬ……」と唸り、渋々若俊から離れた。若俊はさらに本を一冊、デスクの引き出しから取り出し、パラパラと中に目を通した。 「どの専門書にもこんな事例は載っていない。何らかの外的な影響を加えられずに魔力が突然おかしくなるなんてあり得ない。そのくらい、餓鬼でも分かるだろ?」 「………たしかに」 「そもそもボクが分からない病気なんて無い。この完璧なボクがな」 「…………」 「皇とかいうあいつは、悪魔に以外何もされていないと言っていたが、本当か?」  紫苑達は思い返す。蘭李と一番いたのは、クラスが同じでもある白夜だった。沈黙の中、白夜が口を開いた。 「学校でもほとんど一緒にいたけど、何も無かったです。本当に」 「はぁ………じゃあ新種の病気か?」 「あっ、でも……」  ふと思い付いた雷。若俊は瞬時に彼女を見た。 「昨日、朝から熱っぽいって言ってたよね?」 「………熱っぽい?」 「そういや言ってたな。だから先に帰ったんだし……」  若俊は考え込む。デスクに左腕を置き、トントンと人差し指でデスクを叩き出した。 「………なあ。もしかして、コノハが関わってるんじゃないのか?」  槍耶の言葉に、その場の全員が彼に目を向けた。 「外的影響じゃないけど、考えられる異変ってそのくらいじゃないか?」 「それはそうだけど……」 「コノハが取り上げられたのって先週だよ? 時間的に間が空いてない?」 「コノハ? 何だそれは。人か?」  白夜達は大会での出来事も含め、コノハのことを話した。若俊は頭を押さえながら深い溜め息を吐く。 「それだ……なんで早く言わない……!」 「え、やっぱり?」 「でも外的影響って言ってたし……」 「煩い。とにかくそいつを連れてきてくれ」 「連れてくるにも、そのコノハがいなくなってて……」 「そいつのことだったのか……」  再び若俊が溜め息を吐く。ふと白夜が目をやると、眠っていたはずの蘭李が起きていた。驚いた白夜は、叫びながら肩を跳ね上げた。 「うわぁあ!? 起きてる!」 「えっ? わぁあああ!? 蘭李!?」  驚く彼らの声が聞こえてないのか、蘭李はぼーっとしたまま動かなかった。若俊は立ち上がり、ガラスの前に置かれたマイクに口を近付けた。 「大丈夫か? 自分が誰だか分かるか?」  蘭李はゆっくりと首を動かし、若俊の方を向いた。 「………分かります」  虚ろな目をしたまま、蘭李は答える。白夜達はほっと胸を撫で下ろした。若俊はそのまま続ける。 「自分に何が起きたか、覚えているか?」 「………覚えてます」 「記憶は大丈夫だな。だが、未だに魔力は増加し続けている。残念ながら機械を外すことは出来ない。原因を取り除かない限りな」  蘭李は虚ろなまま、今度は機械を眺めた。彼女が運び込まれてからずっと稼働しており、しかし騒音はほとんど聞こえず静かであった。 「そこで質問なんだが、昨日、朝から熱っぽいと言ったらしいな。それは本当か?」 「………これ」 「あ?」 「これを外したら………あたしは死ぬの?」 「ああ。今はな。魔力が増幅する原因さえ分かればどうにかなる」  沈黙が流れた。蘭李の据わった黄色い瞳は、たしかに機械を映してはいるが、どこか別のものを見据えているようだった。若俊は息を飲み、ゆっくり口を開いた。 「さっきの質問に答えてくれ。熱っぽかったというのは本当か?」 「…………もう、いいや」 「は?」  蘭李は首を動かした。真っ直ぐに若俊達を見つめ、にこりと薄く笑った。 「こんな体じゃコノハどころか、まともに生きていくことさえできないよ」 「原因さえ分かれば………」 「原因、分からないんでしょ? てことは、治らないかもしれないってことでしょ?」 「でも治るかもしれないよ……!」 「いい。もうどうせコノハだって帰ってこないんだろうし……」  蘭李はベッドから降りた。俯き気味に、自分と機械を繋ぐ管を見下ろす。 「ていうか……コノハはあたしのものなのに。そもそも誰かにとやかく言われる筋合いなんてなかったはずなのに……!」 「蘭李………?」 「ねえ。みんなもおかしいと思わなかった? なんで無関係の夏さんに怒られてコノハ取られないといけなかったの?」 「それは……夏さんは蘭李達のことを思って……」 「あたし達? 違うでしょ。コノハだけを思ってでしょ? あの人にとっては、コノハさえ無事ならあたしはどうなってもいいんだよ」 「目覚めて早々、とんだ逆ギレだな」  海斗の声にピタリと静止する蘭李。彼女は海斗を睨み付けた。 「お前だって同意の上だっただろ。それを後から、まるで自分は被害者であるかのように責め立てるとか……そもそもお前、性格に問題があるんじゃねぇのか?」 「海斗!」 「お前が直さなきゃいけないのは戦い方じゃねぇ。考え方だ。そうやって我儘ばっか言ってるうちは、一生強くなんか―――」 「分かったよ」  蘭李は再度海斗を睨み付けた。爛々と光るその黄色い瞳から、一滴の滴が流れ落ちる。蘭李は、左腕に繋がれた管を握った。 「なら、さっさと死ぬよ」
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