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 地球外生命体が確認された最も古い記録は現代から百年ほど遡る。  それは人類の夢のひとつに数えられる宇宙開拓の最中に発見された。それも惑星を捕食する姿を捉えたもので、友好関係を結ぶことができると漠然に思い込んでいた人類にとって衝撃的な出逢いだった。それでも宇宙に浪漫を馳せる者たちにとっては悲観的な考え方よりも未来に前進したとポジティブに受け取り、これまで以上に宇宙開拓へと着手していく。妄信的とも取れる思想に警鐘を鳴らす評論家も多くいたが、世紀の発見も時間の流れと共に世間の記憶から薄れていったことで批評の声も自然と消えていった。  その薄れた記憶は百年という月日が流れた現代で思い出すことになる。それも地球を問答無用に襲撃する最悪な形で訪れた。  群れを成して大気圏を突破してきた地球外生命体は総数を減らしながらも地上に着陸すると、飢えた獣の如く野生の動植物を捕食し始めた。その勢いはとどまるところを知らず、このままでは観測した惑星と同様に地球そのものを滅ぼされてしまうと判断した人類は各国が協力する形で軍隊を派遣した。派遣された当初は対話もなく武力行使による排除を考えていた各国だが、対話による平和的解決を望む者たちの意見を無視して強行すれば追々の悔恨になると首脳陣たちは考え、制限時間を設けることで対話による交渉時間を与えた。  今を振り返ればこの選択が一つ目の誤りだったと当時の関係者たちは記録を残している。  対話を試みた結果は失敗に終わる。排除推進派からすれば当然の結果だと言う。対話以前に地球外生命体が人語を理解できる前提がまず理想論でしかない。仮に人語を理解できる知能や言語を翻訳できる機器を持っていたとしても惑星ひとつを捕食する生命体に平和的解決を望むのは無謀の一言だ。  結果的に対話を試みた者たちが捕食されたことで武力行使による排除の空気が一段と強まったのは皮肉な話だと言わざるを得ない。事態の収拾で後手に回ってしまったことが不安材料ではあるが、世界中の軍隊が集結した連合軍に敗北などありえない、と根拠のない自信が不安を払拭させた。  連合軍の総指揮を任された男は片手を空に上げた。それに応えるように待機していた兵士たちが撃ち方の用意に入り、片手が振り下ろされたのを合図に銃火器の引鉄が一斉に引かれた。  銃弾の嵐が地球外生命体に降り注ぐ。何万人による一斉発射の衝撃で舞い上がる土埃と、耳をつんざく銃声が一帯を覆う。一部の地域を除けば平和を謳歌する現代ではまず目にすることはない光景が広がっている。兵士たちにとっても紛争地に派遣でもされない限り実戦を経験しないことから珍しい光景とも言えるだろう。だが彼らにとって目を疑うような光景は別の形で訪れた。  それは銃弾を捕食する地球外生命体の姿だ。捕食対象は生命体に限らなかった。生きた者を捕食することが常識の人類にとって鉄の塊や火薬が食事の対象になるなどと考えが及ぶはずもない。そして更に驚かされたのが捕食した物を体の一部として取り込んだことだ。  反撃と言わんばかりに銃弾の嵐が連合軍を襲って兵士たちの肉体を穿った。連合軍もすかさず応戦するも銃弾の嵐を防ぐ方法などなく、瞬く間に戦力を失っていく。このままでは全滅は免れないと判断した指揮官は撤退命令を出した。  この判断が二つ目の誤りであり、最大の失敗だった。  地球外生命体は撤退する連合軍に一切目もくれず各自バラバラに移動を開始すると手当たり次第、捕食を始めた。その速度は恐るべき早さを誇り、近辺にある村が襲われるのに時間を要することはなかった。近代武器を屈指して討伐することのできなかった相手に一般人が抗えるはずもなく、次々と捕食されていく。小さな村ともなれば全滅するまでに数十分もかからない早さだ。  瞬く間に減少していく人口。荒れていく大地。そして最新兵器を有する軍事国家でも対処できない外敵。生存に置いて現状では敵わないと悟った人類は絶滅だけは免れようと逃走先を惑星の外、宇宙へと向けた。対話など理想でしかないと馬鹿にした排除推進派からすれば宇宙の進出に人生を賭けていた対話推進派の力を借りるこの事態は悔しいものだった。だが同時に対話推進派の面々も肌身で感じた地球外生命体の脅威から身を守るには排除推進派の力が必要不可欠だと結論を出していた。皮肉にも両者が敗北したことで人間同士のいがみ合いは消え、揺るぎない協力関係を結ぶことになった。  両者の力が集結したことで宇宙進出に必要とされる物が次々と開発されていく。その最高傑作とも呼べる成果が疑似惑星“ノア”と名称された方舟だ。それを五隻の開発に成功。現在生存している人類全てを収容できる大きさを誇り、バイオテクノロジーによる自給自足の食糧や飲料の確保はもちろん、人間にとって必要不可欠な酸素を永続的に生成する植物“《神樹|しんじゅ》”が一隻ごとに植えられている。人間が体外に放出する二酸化炭素を吸収して酸素に変化させるのが神樹の役目だ。それでもいざ宇宙へと移住地を変えれば様々な問題が浮上するはず。  そんな一抹の不安を覚えながらも現状から脱出したいという気持ちが全一致したことで、人類は地球を去ることとなった。  遠ざかる大地。これまで映像で見ることがほとんどだった蒼い地球。ノアに搭乗した生存者たちは必ず地球に帰還する決意を胸に宇宙での移住を開始することになった。  それから更に五十八年。地球生まれではなく、ノア生まれノア育ちの若い世代を主力とした地球奪還作戦“プロジェクト・ノア”が開始されようとしていた。
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