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 日本のどこかの、大きな都会の片隅に「レインメーカー」、 つまりは雨降らしの力を持つ人たちがいました。  彼らは代々、雨を降らせる力を持った不思議な家族でした。クリスマスの時にだけ、彼らは雨ではなく、雪を降らせる「スノゥメーカー」になります。それは毎年のいわば恒例行事で、この家に生まれた宿命ともいえるものでした。  だけど。その家族の全てがその役割をよく思っているわけでもなかったのです。 「レインメーカー」の中でも一番末っ子の女の子は、クリスマスの度に、友達の誘いを断らなければいけないことを重荷に感じていました。  だって、「レインメーカー」だなんて言ったところで、誰も信じてくれるはずはないのですから。  だから毎年毎年、「風邪」だの「親の用事」だのと違った言い訳を考えなければいけません。けれどそんな事を続けていたせいで、彼女は事実上友達から見捨てられてしまったんです。今まで仲の良かった友達が年を経るごとに彼女から離れていきました。  だから、彼女は自分の「仕事」が嫌だったし、特に「クリスマス」というものが嫌いになっていきました。  毎年、クリスマスが来るたびに、彼女は憂鬱になるのです。華やかな街のイルミネーションも、賑やかな音楽も、彼女の神経を逆なでするばかりです。 「どうしてあたしだけ、クリスマスにひとりぼっちでいなきゃいけないんだろう」 彼女は自分の部屋でため息をつきました。 ― そして今年もまた、その季節がやってきました。デパートやスーパーではクリスマスの音楽が流れ始めて、あちこちでイルミネーションも付き始めて、日本中が、少しずつクリスマスの色に染まっていきます。クリスマスの限定スイーツやおもちゃの広告がラジオにも新聞にもテレビにも顔を出して、人の会話の中にもクリスマスプレゼントやイルミネーションを見に行こうというお誘いが入り込んで、まさにクリスマスが世界に【やって来る】のです。 「……またこの季節か……」  彼女はその音や光から目を逸らすように、足早に家に戻ると部屋に閉じこもってしまいました。  彼女の部屋の中には、11月まででめくるのをやめた日めくりカレンダーや、夏の海のポスターがあります。この部屋の中だけ、まるで時間が止まっているようでした。 「こんなことしたって意味ないのはわかってるけど……」  彼女自身も、人間です。人間である以上時間の流れに逆らえないことはわかっていました。  それでも、彼女はクリスマスというものが近づいてくるのを知りたくもなかったのです。そして感じたくもありませんでした。  何もかも嫌になって、彼女は耳を塞ぎました。部屋は狭くて冷たくて、まるで彼女の心象世界のようでした。  彼女がそんなことを繰り返しているうちに、クリスマス・イブがやってきました。彼女の家にもクリスマスケーキが届きます。普段は、彼女は見向きもしません。だけど、今年だけは何故か気になったので、彼女は包みを破いてみました。 すると。 {紗雪へ いつも 雪を ありがとう。} そう書かれたメッセージカードが一枚。送り主はわかりませんでした。 「……人に感謝されたのなんて初めて……」  彼女はちょっと嬉しくなりましたが、なぜ差出人が名乗っていないのかも気になりました。だって、もし家族からのメッセージだったらがっかりしないといけないから。 「ん……?なんだろこれ?」  メッセージの裏には小さな雪だるまが描かれていて、よく見ると、雪だるまの絵の下に、 「差出人は、昔に雪だるまを一緒に作った人です」 「もしかして……」  彼女はある人物が思い浮かんだので、すぐにその人に電話をかけました。 ― 「そう。正解だよ」  電話の相手は、彼女が小さいころに一度だけ一緒に遊んだことのある女の子で、正直彼女はあまりよく覚えてはいませんでした。 「えーと、舞雪さん……だよね。久しぶり。」 「うん。すーっごく久しぶり。でも、驚いたなー」 「……驚いた?」 「だって紗雪がレインメーカーだったなんて!」 「……え、でもどこで知って」  彼女は電話を落としそうになって、慌てて拾いました。 基本的にこのお仕事は他の人に、同じ仕事をしている相手以外に知られてはいけないのです。知られても特におとがめはないですが、雨女というあだ名がつくかもしれないですね。 「あ、心配しないでよ。実は私もなんだ」 「へ?」  彼女は思わずすっとんきょうな声をあげました。  無理もありません。彼女は自分たちの家族以外にレインメーカーがいるなんて考えたことがなかったんだから。 「…本当に?」 「うん」 「じゃあ、あたし……もうクリスマスはひとりぼっちじゃないんだね」  彼女の悩みは、自分ひとりだけがクリスマスに友達と遊べないことにありましたが、この一言で気持ちが晴れました。同じようにさみしい思いをしている人が居たからです。ひとりじゃないと彼女は思いました。 「クリスマスが終わったら、遊ぼうよ」 「うん!」 このふたりがこの後仲良くなったのは、たぶん間違いありません。 あなたも、クリスマスに雪を見ることがあったら、この話を思い出してみてくださいね。
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