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 今日で卒業式まできっかり一か月になる。  私が通っている商業高校は就職組が多く、その大半は地元に就職するし、今は授業があらかた終わってしまい、授業も大半は先生の雑談とか自習とかそんな感じが多い。  正直、小学校から数えて今までで一番のんびりしている学校生活だろう。  それなのに、あと二か月も経ってしまえば、皆それぞれの道を歩いているのだ。  想像がつかない。  新生活への恐れはあるが、私の希望的観測だと、一番の仲良しのゆうちゃんとはずっと連絡を取り合うと思うし、多少環境は変わるかかもしれないけれど、変わらないことも多いはずだ。  だから、きっと大丈夫。  その日まで、そう信じていた。   *  *  *  昼休みになり、教室で窓際に座っているゆうちゃんの机でお弁当を食べる。  窓は中庭に面しており、前の席も同じように三人、女子が集まってご飯を食べているので、私はゆうちゃんの正面じゃなくて、右隣、窓を正面に座っていた。  お弁当を食べ終わっていつものようにだべっていると、突然ゆうちゃんがにこやかに、悪く言えばにやにやと脇腹をつついてきた。 「あーぁ、あんたらの幼馴染馬鹿ももうすぐ見納めね」 「ちょっと、脇腹はやめてよ」  普段ならここで私もつつきかえして、笑いあってお相子になるのだけれど、今日はそれよりも話の中身が気になった。 「なに、その、幼馴染馬鹿って」 「そりゃのぞみと修君のことでしょ」 「じゃなくて、どうして私が幼馴染馬鹿なの」 「えー、だって、一年でまだ知り合ったばかりのとき、付き合ってるの?って私が聞いた時、大事な幼馴染だけど違うって言ったじゃない?」  そんなこと言っただろうか。  覚えていないので曖昧に頷くと、ゆうちゃんは笑った。 「それがね、修君にも同じこと聞いた女子たちが同じこと言われたんだって。  それを聞いてから、ずっとあんたたちは私の中で幼馴染馬鹿」 「その馬鹿って、親馬鹿とか、そういう?」  付き合いも長いので、なんとなく言いたいことはわかるが、確認すると頷きが返った。 「そう。だってさ、ほら、普通、幼馴染がいても、中学とか高校になると疎遠になるじゃない。  同性だとそんなことないかもしれないけど、異性だとほら、なんか、気まずくて。  でも、あんたと修君はどっちもそんな様子なくてこっちが恥ずかしくなるくらいに胸を張って幼馴染っていうから、なんかいいなって思って」 「えっそれでどうして親馬鹿とかと同じ扱いなの?」  イイこと言っている風にまとめるゆうちゃんに、純粋な疑問をぶつけると、かわいらしく小首を傾げて教えてくれた。 「なんとなく?」  いくらなんでも幼馴染馬鹿はないだろうと、反論を考えている間にタイミング悪く予鈴がなり、いったん話はそこまでになった。   *  *  *  授業が終わり、帰宅時間である。  昼休みに話が出た修とは、クラスは違うが幼馴染というだけあり、家もすぐそばにあり、時間があえばなんとなく一緒に帰っている。  それも修の部活が引退してからの話だから、そんなに長い期間でもない。 「卒業までもうあと少し、か」  ふと、昼間ゆうちゃんに言われたことがよみがえる。  私も修も就職組だ。  既に就職先も決まっているし、こうして共に帰ることができるのも卒業までのわずかな期間しかない。  改めて自覚すると、この時間がすごく貴重なものに思えた。  隣を歩く修の顔を見上げる。  横顔が夕焼けに染まっていた。  幼いころの面影も探せば残っているが、成長期も過ぎて、いつの間にか大人へと近づいている。  黙っていると、無愛想で少し話しかけづらい。  けれど、意外と笑い上戸で、のぞみの話すちょっとしたことでも笑ってくれる。それこそ幼稚園からの付き合いで、のぞみの方が背が高い時期のことだって覚えている。  だから、急に自覚してしまった。  隣に居ても違和感がない、この距離がたやすく失われてしまうということを。  からかわれても、単なる幼馴染だって、否定してきたくせに。  今までだって自覚する機会はあったのに。  どうして、今、気が付くのだろう。 「なんだよ。なんかついてる?」  じっと見つめていたからだろう。  立ち止まって顔をぬぐう修に答える。   「んー、別に?」  どうしよう。自覚した途端、今までどうして自然に接してこれたのか、まったくわからなくなってしまった。  頬はだんだん熱を持ってくるし、支離滅裂なことを言ってしまいそうだ。  ひとしきり顔をぬぐった後、今度は急に黙り込んだのを修が訝し気に見つめてくる。 「調子が悪いのか? 顔も赤いし、熱でもあるんじゃないだろうな?」 「ひゃっ」  修の手が、おでこに添えられる。  大きくて、温かい。  自分の手とは違う硬い感触に、思わず変な声が出た。 「熱はないようだな」 「な、ないしっ」  慌てて距離を取ると、修は首を傾げた。 「本当、様子が変だぞ。ま、でも時期が時期だし、風邪の引き始めか? 今日はあったかくしておけよ」  首を振って頷く様子を見てどう思ったのか、修はそれ以上何も言わず、いつものように家まで送ってくれた後、帰っていった。 「あ、明日からどうしよう……」  翌日、悩みすぎて知恵熱が出たために学校は休むことになった。  修からは彼が良く使うスタンプが送られてきて、かろうじてスタンプを送り返すことはできたが、果たして明日からどうしたらよいのか。  諦めてゆうちゃんに相談するまで、あとわずか。
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