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 『火消し部隊』火消し専門の部署  それは、本来存在してはならない部署。しかし、いろいろな要因が重なり、納期に大幅な遅延が発生したり、重大な問題が発生したりして、急な対応を強いられた時は往々にしてある。そんな時にサポートを行う部署だ。  部署の性質上、その道のエキスパートが揃っている。そして、一癖も二癖も三癖も四癖もある連中が集まっている。  会社の中にあるが、組織図には掲載されていない。遊撃隊の様な位置づけになっている。社長が直接管理する部署となっているが、社長に命令権が有るわけではない。  全ての権限を持ち、この遊撃隊である『火消し部隊』を率いているのが、真辺真一なのだ。  今年《2F|47》歳になる独身の男性だ。髪の毛は、ほぼ白髪になっているが、禿げていない。身長は中肉中背だと言っているが、仕事の有無での変動が激しい。  本人曰く、痩せて、髪の毛を黒くして、真面目な表情をして、少し頑張れば、多少見られる容姿になる。という事らしい。  そんな真辺なのだが、本人は至って普通の会社員のつもりで居るらしいが、変わり者である事は、本人以外の全員の一致した見解だ。  真辺は、自分は『プログラマ』だと言い張っていて、《SE|システムエンジニア》でも、ITプロフェッショナルでもないと言い張る。  会社が名刺の肩書に『《SE|システムエンジニア》』と書いたら、その名刺は一枚も使うことなく机の引き出しに放り込んだ。  扱える言語は社内で一番多い。マイナーな言語も使いこなす技量や知識もある。扱える端末の数もずば抜けている。客先での技術的な話から《政治的|大人の事情》な話まで行える。名指しで仕事が来る事もある。会社としては、そんな彼の肩書が『プログラマ』では、現場での発言や立場が軽く見られる事を危惧している。実際に何度も肩書の変更をおこなっている。  しかし、彼は彼なりのポリシーがあり、プログラマの肩書を変えるつもりは無いようだ。会社側としては彼が『プログラマ』では、単価が数十万円も違ってきてしまう。会社と真辺の間でとられた、妥協点は、『肩書なし』だ。現在では、それが彼の肩書になっている。肩書なしは、真辺にも会社にも都合がいい。会社は、真辺が居ない所で、《SE|システムエンジニア》やITプロフェッショナルなど適当な役職だと言えるからだ。  火消し部隊としては、様々な現場に顔を出し短時間で、業務を理解して問題点のあぶり出しを行わなければならない。プログラム言語や端末特性が『わかりません』では、通用しない。そんな事もあり、プログラム言語だけではなく、端末機器やネットワークやサーバ関連の知識も豊富に持っている。  彼の大きな欠陥の一つが、同じ立場の人間は自分と同じ事ができると思っている事だ。  彼、曰く『自分のような欠陥品ができるのだから、大学を出ている優秀な人間に出来ないわけがない』が、部下や取引先の人間によくいうセリフになっている。  そんな火消し部隊の隊長が、新しく入った部下に言っているのが『言語なんて、書き方の違いはあるが、【入力→計算・判断→出力】が使えればなんとかなる』だ。  暴言である事は、彼が一番理解している。しかし、言語理解や開発手法は重要ではないというのが、彼の根本的な考え方なのだ。自分たちは、研究者でも学生でも教育者でもない、開発者であり。顧客が求めているのは完成したシステムだ。システムを作る為に使った技術でも努力でもない、《結果|システム》なのだ。  そんな彼が率いる火消し部隊には、会社内の部署からだけではなく、他の会社からも要請が入ってくる。  先日も、2月末納品のプロジェクトで、客との認識の違いが1月末に発覚して火が燻り始めた。現場に呼び出されて火消しを行うことになった。  『客との意見の相違』といわた現場は、大変に優秀な営業が現場に確認も取らないで『《営業判断|自己保身》』で客と口約束を交わしていた。  『自分たちがしでかしたことではない』と、いう気持ちが強い開発担当や現場営業の士気は最悪な状態になっている。ただ、士気が低かろうが、納品の日付が伸びるわけではない。  撤退を決めるか、それでも納品までこぎつけるのか、それとも客と交渉をして納期を伸ばすか?その判断時期が押し迫っていた。  この案件で、真辺たちに課せられた役目は、現状を把握して、上層部に正確な情報を伝える事だ。  撤退が決まれば、速やかな撤退準備を行い。《殿|しんがり》を務める事になる。無理やり納品してお茶を濁すというアイディアもあるにはあるが、真辺はその選択肢はないと考えていた。  怒り心頭の客との交渉を行い。現場の人間に全員に、3日間の休みを取らせた。休みの間で、現状解っている情報を整理して、自分のチームメンバーだけでソースコード一式を検査して、客が言っている事や営業が話した事の裏取りを行う。  状況把握は比較的容易に行う事ができた。現場には、ドキュメントがしっかり残されていて、議事録も残されていた。  それらをベースにして、火が着いたシナリオを構築し整理していく。  『《優秀な|自己保身に長けた》営業』がいるために、営業を通さずに客の担当者と話をするのが難しい状況になっていた。そこで、真辺たちは客の上層部と直接パイプを繋げる事にした。  真辺が率いる部隊は、火消しを担当しているので、社内の部署だけではなく、外部の会社にも伝手を作りやすい環境にある。同じ業界なら、間に一人挟めば大抵の開発会社には繋がりが出来る。客にも二人挟めばよほど小さな企業ないかぎりは繋がりを持つ事が出来る。  この会社の上層部への伝手もすぐに見つかった。以前一緒に火消しをしたシステム会社の人間が客の上層部を知っていた。  システム会社の人間に客の別部署に話を繋いで貰って、火消し対象の部署を管理する上層部に繋げてもらった。  こんな水面下での交渉は本来やるべきではないが、今回の『火』は客の上層部の一部と口の軽い営業が燃料を投下している。それらを排除するのが近道なのだ。  まずは、雑談として客の現場サイドの人間と話をすることから始める。  やはりというか予想通りの展開だ。現場としては、現状出来ている物で、それほど機能的な問題は感じていない、それよりも新しい仕組みが入ったシステムを早くリリースして欲しいと思っているようだ。  そのことは議事録からも伺えることだ。それではなぜ『火』が燻ったのか?  簡単な事だ、客の上層部と《優秀な営業|口の軽い愚か者》が問題なのだ。客の上層部は、《優秀な営業|口の軽い愚か者》が言った事を、『そのまま』自分の手柄として上層部に伝えた。そして、リリース前になって、『自分が依頼した機能』が出来ていないと騒ぎ出した。それが出来ていないと、自分の失点につながるからだ。しかし、現場としては、そんな瑣末な機能よりも他の機能の充実をお願いして、現場サイドでは納得していた。  まず、真辺達がやったのは、現状の状況の整理だ。【出来ている/出来ていない】の区分でも、【リリースできる/顧客の確認済み/テスト開始できる/ソースコミット済み/デバッグ中/開発中/仕様待ち/他のモジュール待ち/必要ない】の区分に振り分ける。客側の担当者からの聞き取りを行い。モジュールの確認を行っていく。  大抵の場合「あぁそれ必要ない」や「え?どういう事」という話しが出てきて、機能の絞り込みができるのだ。  この現場では、735本のモジュールが存在していた。  実際に、開発が終わっているのか、デバッグが終わっているのかは、現場の担当者が出てこないと判明しないがが、客との話では、仕様待ちとなっているモジュールは、ほぼ必要ない物だ。  客が開発中と認識しているのが、優秀な営業と客の上層部の話で決まった機能だ。それ以外は、ほぼほぼ問題なく終わりそうな雰囲気がある。  結局、よくある火付け現場になっている。議事録が残されている現場でも認識の違いが発生するのだ。  客と開発者のコミュニケーションの不足から発生する現象だ。話をして議事録を残しているだけではなく、客と客の上司との会話や開発者と営業のコミュニケーションの不足が招く古典的な火事現場だ。開発者は、客の担当者に負担をかけないために承認は担当者だけで行うようにして、客は開発者に気を使って内部資料から報告書を作成して報告をおこなう。  開発者は、客とのやり取りで問題がないと資料を作成して社内の上司に報告をおこなう。  原因らしき物が判明した真辺たちは、現場の開発者を全員集めて説明する事にした。  真辺たちには指揮権はないが、状況確認の為に『必要な事』という名目で話を聞くことになる。休ませている間に作成した報告書をベースに話をする事になるが、《優秀な営業|口の軽い愚か者》は会議に出席させない。  実際に、開発者がどういう認識で居るのかを知りたいからだ。  開発者たちは、なぜこんな事になったのか把握出来ていなかった。  急に『この機能はどうなっている?』と客がいい出したのが始まりで、現場の営業が不在で担当者が説明をした。納品が近づいているので当然のことだ。  そこに、終わっていると思っていた『新機能』の話。現場は、『新機能』に関しては、『今は考慮していません』と答えるしかなかった。  ここで、客が上役にそのまま報告をしてしまって、上役が『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』に『どういう事だ』とクレームを入れる。『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』は、自分の失点になると困るので、開発サイドの問題であるかのように説明して、開発させますと言ってしまう。  慌てる現場だが、『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』は自分が居ないと何も出来ないと思いこんで、打ち合わせや会議に顔をだすようになる。開発が終わらないのは、人手が足りないからだと、他のチームの仕事が終わった若手を投入する。現場は更に混乱する。客は、金額が変わらないまま人が増えているので、なんとかなると思い込む。『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』も『(自分の失点ではない部分を強調しながら)問題ない』と説明する。  しかし、納品が近い開発案件に、業務を理解していない人間を入れてもほぼ戦力外となってしまう。そして、『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』は、自分が他の部署に頭下げて人を融通して貰ったのに、使わないのはどういうことだといい出す。  これが、この現場で発生した事だ。  たった一言の説明があれば問題にはならなかった。  そして、『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』がコミットした機能は、直近では必要がなく、運営対応ができる物だ。次回のリリースがあれば、そこで、実装する予定となっている機能なのだ。  真辺たちは、これらの報告書を上層部に提出した。『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』の話しは一切無視をした形だ。  誰がやったかは、終わってから会社が調べればいい事で、こじれてしまった糸をほぐす事がまずは大事なのだ。  会社からの指示は 「《業務続行|死んでも納品》」だった。真辺たちに下った指示は《納期交渉|時間稼ぎ》を行えという物だ。735本中。次回リリースに回せるモジュール。73本。新機能が殆どだ。客がいらないと言った機能も含まれている。  現場での話し合いはうまく行く事が多い。問題は、上役が出て来る時だ。何か、お土産を提示しないと話が進まない事がおおい。  客の社内での立場もある。その為に、その情報をリサーチしてから交渉に臨む。  基本的には、納期交渉は現実的ではない場合が多い。  その為に、真辺たちが取った作戦は『実質的な納期延長』だ。納期に間に合いそうな機能でのリリースを行い。  バージョンアップでの機能追加を行うという事にした。まずは、現場が実際に必要な機能だけをリリースする。  開発者からの聞き取りで、バージョンアップするまでの期間として、2ヶ月と見積もられた。真辺は、それを3ヶ月と説明した。火が付いている現場の人間たちの心理は、自分たちが客に迷惑をかけていると思っている場合が多い。その為に、自分達が多少無理をすればよいと考えてしまう。その為に、ギリギリの納期を申告してしまう。その為に、何か問題が発生した時の対応ができなくなってしまう。そして、新たな火が噴出して、炎となってしまう。そうならないために、最低でも1.5倍の納期を客に申告する。  それで納期よりも早く出来てしまっても、文句をいう客は居ない。  交渉のやり方もいろいろあるが、今回は客の社内で使うツールだったので、リリースを予定通りに行って、次のバージョンアップ時に入れる機能を先にコミットして、客の面子を潰さないようにする。確かに、使えない機能は出て来るが、それは3ヶ月後にリリースすると約束する。そして、もう一つ大事な事は、『このリリースは社内で多くの人に使ってもらう事を前提しているので、問題が発生したときの為に、3ヶ月間は弊社の人間が対応を行う。その為に、出張扱いで誰かを張り付かせます』と、お願いする事だ。  客からは、幾つかの要望が入ったが概ね了承の返事を貰った。  問題は、この余計にかかる3ヶ月間の予算だが、真辺たちの分を入れても、かなりの損失になる。  会社と真辺たちの考えは一緒で、この3ヶ月間できっちり納品を行い。次に繋げる。そして、その次で損失分を回収するように交渉する。  この時の営業は、現場に近い営業が行い、『《優秀な営業|口の軽い愚か者》』には《別の|口出しできない》仕事にコミットしてもらうようにする。  そして、現場の開発者たちは、本来なら2月末で一区切り着くはずだった仕事を、3ヶ月間延長をしなければならなくなった。途中から入った若手には、2月末で元の部署に戻ってもらう。  正直居てもらっても迷惑にしかならない。真辺の部下たちがその代わりに雑務を担当する。業務知識が必要ない。《DB|データベース》周りやネットワーク周りの事やOS周りの事をそれぞれ担当する。残ったメンバーでソースのレビューを行っていく。火が着いた現場では、途中から、コピペの嵐になる事が多い。同じような事をやっているソースコードをコピペして、内容に合わせてすこしだけ修正を行い、コミットする。  そのまま放置していると、同じような機能で発生した障害が隠されたまま進む場合がある。そうならないために、共通化を行う必要があるのだが、そこまで手が回らない事が多い。その為に、言語的に、可能な範囲で、共通化作業を、並行して行っていく。  業務的に同じような事を行っている部分が多くなっていく、それらが使われているモジュールを把握するだけでも、デバッグの時やテストの時に役立つ情報となる。  そして…真辺たちは、3ヶ月間の延長業務を終わらせて、無事鎮火した事を確認した。  新たな契約が結べた事もいいニュースとなった。間が1ヶ月空いてしまったが、6月からの仕事としてバージョンアップと新機能の追加業務を受注できたのだ。  現場の人間たちは、この一ヶ月を使って、客との打ち合わせや新機能のプロトタイプを作ったりする業務を行う。  現場を離れて、これらの事を上層部に報告して、会議室を出た。 「んーん」  真辺は久しぶりの休みを取る事にしていた。年末から働き通しだ。  趣味が、プログラムという生粋のプログラマではある46歳独身の男性。ついでに天涯孤独。更にいうと、郊外に一戸建てを持っている。そんな人間でも休みが欲しいと思う事はある。  彼女が居た事もあるし、それなりの経験はある。男性が好きなわけではなく。恋愛対象は普通に女性だ。  帰っても、自分で遊びのプログラムを作っているが、それが仕事で受けたストレスの発散になっている。  家には、待っている人は居ないが、去年の夏までは、兄妹猫を飼っていた。30歳になる前に拾った猫だった。夏に、最初に妹猫が天寿をまっとうして、追うように兄猫も亡くなった。二匹とも、真辺に懐いていて、ダメだと言っても、布団の中に入ってきて寝てしまう。いつの間にか真辺も許していた。  そんな待つものが居なくなった家に帰るのが辛くて、仕事に打ち込んでいた事もあるが、自分が休まないと部下たちも休めない。  今回は、丁度いい機会だから、長期休みを取る事にした。  実家があった町に行って墓参りもしておきたい。そして、いろいろやっていなかった事も片付けてようと考えていた。  長期休みは、無事、会社に承諾させた。  1ヶ月間の休みだ。次の現場はまだ決まっていない。  社内で待機になる事も考えられる。それならそれでも良いと思っている。  半年近く最新技術や情報を調べていない。それらを調べながら、次の現場が決まるのを待っている事になるだろう。  部下たちの休暇の申請も会社《に|を》《掛け合って|脅迫して》全部許可させた。  伸びをしながら、真辺は部下や信頼している営業のことを思い出しながら、部署がある階に移動していた。  腹心と呼ばれる部下は3名。そして、本人には絶対に言わないが、この部署の後継者として考えている1人の女性。そんな彼らとの出会いを思い出していた。
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