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 蠱毒 ”代表的な術式として『医学綱目』巻25の記載では「ヘビ、ムカデ、ゲジ、カエルなどの百虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが神霊となるためこれを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加えたり、思い通りに福を得たり、富貴を図ったりする。人がこの毒に当たると、症状はさまざまであるが、「一定期間のうちにその人は大抵死ぬ」と記載されている”  出典Wikipedia  私がこの言葉を知ったのは、とある学校の噂話を聞いて、編集長に取材の許可を求めた時だ。  その学校は、全国的に見ても優秀な学校だ。有名大学だけではなく、海外の大学への進学の実績も多数ある。それだけなら、優秀な学校だなで終わるのだが、この学校には全国から有名企業の子息や議員先生の子息だけではなく、もう今はほぼ居なくなってしまった暴力組織の子息も受け入れている。金さえ積めば入られる学校なのに、進学率がとんでもなく高いのだ。  そして、昨今では珍しい男子校で、全寮制なのだ。独自のカリキュラムで”上流社会”での立ち居振る舞いまで完璧に教え込まれる。  しかし、学校は調べられる事が少なすぎる。対外的に公表している情報が少ないのだ。  学校法人である事から、登録されている情報は見る事ができる。しかし、理事長から始まって教師は当然だが用務員や寮長まで、学校に関わっている全員が”卒業生”で構成されているのだ。  確かに、OBを優遇して採用する学校は多い。有名市立大学系の学校では特にその傾向が強い。  学校に質問状を出したら期限内にすごく丁寧な文章で、優秀な卒業生を雇い入れるのがそんなにおかしなことですか?と返されてしまった。  それだけではなく、学校で雇い入れた人たちは、跡継と期待されている人物なので、人脈作りや他の就職先よりは有利に働く事ができるという判断で、学校に就職を決めたとまで書かれていた。丁寧に、教師のプロフィール付きでだ。  そうそうたるメンバーだ。本人の事は知らなくても、バックボーンを見ると話を聞きに行くのに躊躇するのには十分だ。上司に問い合わせても許可が出るとは思えない。  なぜ、私がこの学校の事を調べようと思ったかだが、私の幼馴染がこの学校を卒業後に人が変わってしまったからだ。  確かに小学校からこの学校に入っている。彼との思い出は、小学校に上がる前まで、それ以降のと大学卒業してから出会うまでで合計20年間以上も会っていない期間があったが、本当に別人になっている。彼は、確かにとある議員の息子だ。しかし、子供の頃は母親と一緒に居て、父親の事は”怖いおじさん”程度にしか思っていなかったはずだ。  大学を卒業した彼に会ったのは偶然だった。父親の秘書をしていた。私は、記者になっていた。そして、彼の父親の取材に同行していた彼に遭遇した。  確かに見た目は大人になっている。幼い時の雰囲気もまとっている。  しかし、根本的に違うのだ。  私は、直感で彼が”別人”になってしまったと思った。事実、彼は私の事も、母親の事も、そんな昔の事は忘れたと話した。私には、彼が別人の様に思えてならない。子供の時の癖が一つも出てこないのだ。あの粗野だった彼がここまで洗練した動きができるのか?方言は?子供にだけ解る言葉遊びは?  見れば見るほど、話をすればするほど、疑問しか出てこなかった。  いろいろな噂話を耳にする。  1学年は多くても100名前後で、必ず飛び抜けて一人だけ秀才が現れるという話だ。この噂話も別に不思議な事ではない。どこの学校でも、学校の教育方針にバッチリと適合すれば、秀才は産まれるだろう。この学校でおかしな所は、”毎年必ず《一|・》《人|・》《の|・》《秀|・》《才|・》”が産まれる事なのだ。  そして、秀才を含めて、卒業生はそれまでの事が嘘のように従順になったり、過去の話を極力嫌って、過去付き合いが有ったであろう人たちから離れていくようだ。人によっては、食べ物の好みが変わってしまう事もあったようだ。アレルギーで食べられなかった物が食べられるようになっていたという話もあった。  調べれば調べるほどに、よくわからない。  100名の生徒のうち、一人の秀才が産まれて、99名が外見以外は別人になっている。  秀才も、卒業年度によって分野が違っている。そして、天才と呼ばれるような人が一人も産まれていないのだ。こんな不自然な状況が、設立以来30年以上続いているようなのだ。  編集長にその話をすると一冊の本が渡された。二十四史の13番目。隋書だ。その中ある「畜蠱」について書かれている部分を読んでおけと言われた。  読んだ後の私の感想は、そんな馬鹿な…だった。  学校が実行しているのは、100名の生徒の集合知を一人に集める事なのか?  残された生徒は?99名の生徒はどうなった?  性格が変わった?好みが変わった?別人の様になった?  否定しようと思って考えれば考える程、当てはまってしまう。  集合知だから、天才ではない。集合知だから、肉体的な秀才ではなく知識ベースの秀才になっている。集合知だから、学年によって違っている?  でもどうやって?  理事長や学園長の経歴を調べると、2人とも変わった所は一つだけだ。  ベトナム戦争当時に、医療団として、韓国軍と一緒に行動していた事があるだけだ。ベトナム戦争で、戦争の悲惨さを知り、子供の教育を行う事に目覚めたとなっている。何か違和感を覚えるが、事実なのだろう。  彼らが何かをやっているのは間違い無い。 「佐々木」 「はい。なんでしょうか?編集長」 「あの学校の取材な」 「はい」 「《ストップ|圧力》が掛かった」  編集長は指で上を指す。 「社長ですか?」 「もっと上だ」  そりゃぁダメだ。  議員なら、うちの会社が折れる事は無いだろうが、それで圧力が掛かったという事は、《金主|スポンサー》である可能性が高い。うちの会社の《金主|スポンサー》は特殊な人たちで構成されていて、表に出ていない。そこに圧力をかけられると言うのはよほどのことだろう。  正直、学校の秘密くらいで《ストップ|圧力》がかかるとは思っていなかった。 「調べた資料を出しておけよ」 「え?いいのですか?」 「あぁ取引材料にできるかもしれないからな」 「わかりました」 「無理しなくていいからな」 「はい!編集長の言い方ですと、週末までに用意しろって事ですね」 「そのくらいにあると助かる」 「はい。かしこまりました」  今は木曜日だから、約一日あると考えていいのだが…。今日徹夜だな。 「徹夜まではしなくていいからな。取材メモやインタビューの草案でいいぞ?記事にするわけではないからな」 「え?あっ。わかりました」  終電では帰れって事だな。まとめと、私の感想を添えておこう。 ”うぅーん!”  なんとかまとまったかな。  時刻を見ると、22時30分を回った所だ。以前住んでいた、都内なら終電までまだまだ時間があるが、地方都市ではそろそろ動かないと終電にまにに合わない。慌てて、資料を編集長にメールして、メモや取材で使った手書きの資料や切り抜きに関しては、まとめて編集長にわたすことにする。ポスト状になっている物で、編集長が持っている鍵で取り出す仕組みになっている場所に入れておく。  持ちビルではないが、6階建てのビルの上から4階がうちの会社が借りている。  エレベータを待っていると、私が居る5階を通り過ぎて6階に上がっていった。6階は、役員やお偉方がいる階なので、一緒にはなりたくない。なりたくないが、もう下のボタンを押してしまっている。  エレベータが下がってきた。 ”ん?誰も乗っていない?”  開いたエレベータには誰も乗っていない。  おかしいな?6階には、許可された人と一緒じゃないとダメなはずだよな?  6階のボタンは押せなくなっていて、カードキーで認証を通さないとダメなのだ。  まぁ誰かが荷物でも取りに来たのだろう。  気にしてもしょうがないから、さっさと帰る事にしよう。今日は、5階では私が最終だったので、鍵を守衛に預けて帰る事になる。  エレベータは節電という事で、この時間になるとかなり暗くなっていて、奥が少し光っている程度だ。  階のパネルも行ける階だけが光っている。1階を押して、閉まるボタンを押す。  少しだけ”ヌルっと”した手触りがして気持ち悪かった。  エレベータは3階で一度止まった。ドアが開くが、誰も乗り込んでこない。上に行くのを見て、諦めて階段で移動したのだろう。  エレベータを降りて、守衛さんがいる場所まで移動する。 「お!今日は、お嬢が最終か?」 「おじさん。お嬢は辞めてくださいよ」 「すまん。すまん。はい。鍵は確かに預かった。ここにサインしてくれ」 「はい」  私がサインした横におじさんが判子を押して、時間を書き込む。 「そう言えば、おじさん。天上階、誰かお客さん?」 「ん?お前さん以外もう誰もいないぞ?」 「え?」 「どうした?」 「ううん。なんでもない。3階の人も遅くまでいたのですね」 「3階?」 「うん」 「お嬢。ちょっと疲れていないか?《3|・》《階|・》《は|・》《空|・》《室|・》だぞ?来週、お前さん達が引っ越すのだろう?」 「え?だって、エレベータ…」 「何かの勘違いじゃないのか?」  おじさんはエレベータの移動記憶を見せてくれた。  このビルは、言えばログをこうして見せてくれる。  確かに、エレベータは1階から5階まで直通で来て、5階から1階に向けて一度も止まらないで来ている。  そして、奥の監視カメラの映像は、私が最終だった5階は当然だが、3階も6階も真っ暗な映像が流れている。赤外線カメラの映像でも誰も居ない事が確認できている。 「…。そうみたいだね。温めていた記事がダメになっちゃって気分が落ち込んでいたのかもしれない」 「そうか、気落ちするなよ」 「うん!大丈夫。違うスクープを狙うよ!」 「おぉさすがはお嬢。スクープが取れたら、おごってもらおうかな」 「いいですよ!出前のお寿司でも差し入れしますよ」 「そりゃぁ楽しみにしておくよ。気をつけて帰れよ」 「はぁーい。お疲れ様」 「あぁお疲れ様」  本当に私の勘違いだったのだろうか?  3階で開いたときに、何かが腐った匂いと一緒に血のような匂いがしたけど、あれも気のせいだよね。 ”やば。終電!”  時間的にはまにあいそうだが、少し急ぎ足で駅まで移動する。  明かりがついていて少しホッとする。 ”イタっ!”  ん?誰かにぶつかった?  左手に違和感がある。左手を見る。  え?  なにこれ?  なんで?  え…??
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