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 午後、屋外運動場のグラウンドで、ジャージ姿のカリンと真湖は並走していた。真湖へカリンが一方的に今朝の絶望的な教官の一言——中間考査について、まくしたてている。 「確かに、重要なことよね」  うんうん、と真湖は頷いた。対して、カリンは憤慨する。 「でも! 模擬戦をこなして中間考査までこなせ、だなんてあんまりよ!」  入学からひと月と少し、つい先日クラス内模擬戦をやってまた一ヶ月と経たないうちに模擬戦だ。特訓三昧でGA操縦に自信のついたカリンでさえ、文句の一つも言いたくなる。 「そういうところなのよ、ここは」  真湖は諦め気味に笑う。そういうものなのか、とカリンも納得しかけたが、いややはりおかしい、と正気に戻った。 「先輩も中間考査があるの?」 「もちろん。防大受験組はもっと大変なんじゃないかしら、免除もないし」  真湖は走りながらカリンに日本の受験制度の説明をする。戦姫学園は高等専門学校に分類されるため、五年間の履修後、日本の防衛大学校の特殊理工科の三年次に編入できるのだ。当然ながら試験も存在しており、将来の幹部候補生を育てる防衛大学校で、しかも女性がついていけるかは本人の資質次第、といったところらしい。  ただ、防衛大学校のほうも、男女問わず生粋のGA乗りは喉から手が出るほど欲しい逸材であるため、試験は建前なのでは、という噂もあるとかないとか。ちなみに、留学生も編入試験を受けることができる。受けるかどうかは——カリンは、今はまだ、考えていなかった。  肝心の真湖はというと、戦姫学園卒業後はそのまま自衛隊に入隊するつもりらしい。何でも、両親ともに自衛官であるため、早く入隊して喜ばせてあげたいのだそうだ。真湖に限らず、日本人の戦姫学園在籍者は大体、身内に自衛官がいて、幼いころからGAに慣れ親しんでいる者が多い。そのため、何となく親の繋がりで子供も妙にしがらみがある、と真湖は愚痴を零した。 「あ、中間考査も期末試験も、順位と点数がちゃんと全員分掲示されるから、赤点を取ったら恥ずかしいわよー」 「い、嫌すぎる……!」  赤点、つまり三十点以下を取ろうものなら、クラスメイトだけでなく学年中からの笑い者にされることが目に見えている。ただでさえ、他のクラスでも自身が最弱だの何だのと噂されていることを知っているカリンは、これ以上、恥の上塗りだけはしたくなかった。  しょうがないので、夕食の後にでもリーザに勉強を見てもらうことにしよう、とカリンは心に決めた。こと勉学に関してはカリンよりリーザのほうが圧倒的に上なのだから、本当にしょうがない。  ふと、真湖が立ち止まった。  カリンは何事かと同じく走るのをやめる。真湖の見ている方向に目をやると、黒髪褐色肌の女生徒が真湖を見ていた。  いくら戦姫学園が各国から留学生を受け入れているとはいえ、褐色肌の女生徒はそうはいない。しかし、カリンはどこかで見たことがある。カリンが記憶を探っていると、真湖が女生徒に声をかけた。 「ラウラ!」  真湖は女生徒の名前を呼び、手を振った。  ラウラ。そう、カリンは思い出した。入学式で答辞を読んだ戦姫学園生徒会長、三年生のラウラ・ルアルディだ。同時に、学園最強のGA搭乗者の異名を恣にしている女傑でもある。  百七十センチを超える長身のモデルのような体型のラウラは、戦姫学園の制服を完璧に着こなしていた。  対照的にカリンと真湖は十センチ近い身長差もそうだが、学校指定のジャージ姿で何となく芋くさい印象が否めない。  それはともかく、カリンと真湖はラウラのもとに向かう。生徒会長が見ている、というよりも睨みつけてきているのだから、一般生徒と生徒会副会長としてはご用向きを伺いに行くのが無難だろう。  カリンと真湖が目の前に来るやいなや、ラウラは怒鳴った。 「真湖、何をしている!」 「な、何って、特訓?」 「下級生に構っている場合か! 私との模擬戦はどうした!」 「あ」  なるほど、カリンはラウラが怒っている理由が分かった。 「ごめんなさい、すっかり忘れていて」 「今からやるぞ。準備しろ」 「ええ!?」 「星見草の整備は済んでいるだろう。私のペルニカも準備はできている」  話の流れが早すぎて、真湖は追いつけていない。  しかし、特訓に横槍を入れられたとはいえ——ひょっとすると、これはチャンスなのではないか。カリンはそう考え、真湖の左手を掴む。 「先輩! 私、先輩と生徒会長の模擬戦、見学したい!」 「ええー……?」  真湖は困惑の表情を浮かべていた。一方、ラウラは勝ち誇った様子で胸を張る。 「ほら見ろ。そこの下級生……名前は?」 「カリーナ・コアンネロ・リムステラ・シレジアンよ」 「長い」 「カリンでいいわ、生徒会長」 「ならカリン、今から私は真湖と模擬戦をする。見学したければすればいい」  第一訓練場で待つ、と言い残して、ラウラは去っていった。  真湖は盛大にため息を吐いた。 「もおー……どうするのよ、カリンさん」 「大丈夫! 私は先輩を応援するから!」 「そういう問題じゃなくて」  珍しく、真湖は弱気だった。強くて優しい真湖が、本当に困った表情を見せている。  カリンは、やりすぎたかな、と少し反省した。とはいえ、けしかけたカリンが学園最強に挑むわけにもいかない。カリンが即座に負ける様が目に浮かぶ。 「うぅん、やるしかないわね。後輩に格好悪いところ見せるかもしれないけれど、ラウラと約束して忘れていた私にも責任があるし」  顎に手を当て、よし、と真湖は覚悟を決めたようだった。  かくして、今年度初めての生徒会会長対副会長の戦いの火蓋が切って落とされようとしていたことを、カリンはまだ気づいていなかった。
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