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 船に揺られて次の日の朝。存外近く、古くから交流のある和ノ国とマリテは、航路がしっかりと確立されているお陰ですぐに到着できる。俺とメイは朝日を受けて輝くマリテの首都·アスターに目を輝かせ、これからこの地を巡るのだと胸を高鳴らせ、同時に初めての場所に少し不安にもなった。……のだが。  「ヘイそこのあんちゃん!! これ買ってくかい!? 今朝捕れた新鮮な魚だよ!!」 「こいつは南の方からの甘ぁいフルーツさ!! 買っていきな!!」 「お兄さん、これ、綺麗だろう? どうだい、今ならなんと3000コリトで売ってあげるよ」 人が……多いッ!! その上市場の商人の熱気の強さ。和ノ国の多水《おおみず》と似たものがあるが人の量が比べ物にならない。流石は三大国と感心する。 「兄ちゃん、大丈夫?」 「あ、ああ……。メイ、お前こそ大丈夫か?」 ちょっと人酔いしかけていたところで聞こえてきた声にはっとした。そういえばメイはこんなに多くの人を見たことがない。ある程度の人混みは経験してきた俺でもこうなのだから、彼女はもっと大変だろう、と兄なりに気遣ったのだが。 「え? うん、だって人に気付かれないように魔術使ってるし」 「自分に使うならお兄ちゃんにも使って欲しかったな!!」 思わず先程の心配を投げ捨てて全力で返してしまった。 道理でメイには誰も声をかけないわけだよ!! てかお前俺を人避けの盾に使ってるな!? 酷い……っ!! とあまりにもの虚しさによよ……と泣きそうになった。 それを見ていた船長がけらけらと笑う。 「ははは。メイは強かやなあ。ええ女になるでえ」 「ありがと、船長♡」 「お前なあ……っんむ」 その白々しさに怒る気にもなれずジト目で妹を見遣ると口に何かが突っ込まれた。飴だ。 「んなしかめっ面しなさんな。ほら、もうすぐ酒場やで」 飴を突っ込んだ張本人である船長は前方を指す。そこには、他の建物よりも一際大きな建物があった。  酒場という場所は、多くの人が集まる情報交換の場であり、クエストと呼ばれる仕事も集まる、金稼ぎの場でもある。 旅人にとって金が稼げて、宿屋も兼ねているここはなくてはならない場所だ。 ちなみにすぐそばに冒険者協会というものも併設されており、そちらは定住してクエストを受けることを生業とする冒険者達専用のクエストを受ける場所である。 別の地からやってきた旅人は、泊まるにしてもクエストを受けるにしてもまずは酒場の受付で旅人登録をする。そこから泊まるなら部屋を取り、クエストを受けるならクエストの受付で自分の力量や条件に合うものを探す。料理を頼んで他の人と話に花を咲かせるのもいい。 飯と情報と仕事。この全てが酒場には集まるのだ。  俺とメイが旅人登録を済ませて先に席に座っていた船長の元に戻ると、彼女は既に大量の料理を注文していた。 「おー!! やっと来たか!! さあ、座り座り!!」 「船長…………」 「こんなに食べるのか……? あんたいくらなんでもこれ全部食べたら太るぞ……?」 こんな細っこい身体によく入るものだと思わず引くと、船長はあほかー!! と怒鳴る。 「全部私の奢りやっちゅうねん!! 流石に一人で食い切らんわ!!」 その言葉に俺たちの目が光る。奢り? 奢りって船長言いましたね今。 「え、まじ? これ全部船長の奢り?」 「そうや」 「このサラダも食べたい」 「ええよ」 「あ、デザートも付けて」 「もちろん、門出祝いやからな」 「「船長大好きっ!!」」 飛びついた俺たち兄妹を船長は豪快に笑って受け止める。 知ってたけど船長の力はやっぱり強くて、ちょっと俺の男としての尊厳がアレになって涙が出そうになる。 すると、その様子を見ていた周りの商人たちが集まってきた。 「お、ヤヨイちゃん、どしたのかね」 「お前一人っ子じゃなかったっけ? 妹と弟?」 ヤヨイ、というのは船長の名前である。彼女はいいや、と返す。 「よく寄ってる和ノ国の宿場町のとこの兄妹や。昨日初めて国の外に出て、旅を始めたんよ」 それを聞いた商人たちはそりゃあめでたい!! と沸いて、それならこれも食いな、あれも食いなとどんどん料理を持ってくる。 わぁい今日の朝飯は豪勢だなぁ!! ……ちょっと待て、今酒も運ばれてきたぞ朝っぱらからなにしてんだ。……ってこらメイどさくさに紛れて飲もうとするな!! 俺が慌てて酒の入ったグラスを取り上げる前に別の手がメイからそれをひょい、と取る。 「こらこら、君のようなお嬢さんが飲むものじゃないよ」 上から降ってきた声に顔を上げると、俺と同じくらいの青年が微笑んでいた。 ちなみに顔がいい。顔立ち的に大陸の方の方ですかね外国の方はやっぱりイケメンが多いですね。 アカリ君泣いていい? 「あっ、ラン!! おったんか」 「久しぶり、ヤヨイさん。どうやら盛り上がっているみたいだけど?」 俺が手を伸ばしたまま硬直し、勝手に脳内で彼と自分を比較して泣きたくなっているのをよそに、ランというその青年は船長から俺たち兄妹のことを聞くと、へえ、と目を細める。 「僕の名前はラン。君たちと同じ旅人さ」 彼は俺と同い年で、三大国の一つ、陸の帝国テッラの出身といった。船長とは数年前に別の国で出会ったらしい。 その物腰は柔らかで、気品さえも感じさせる。話もとてもおもしろく、船長も彼を気に入っている理由がよくわかった。 これで顔もいいんだから、さぞモテるだろうなぁ、と思って己のこれまでを振り返り、その中々に中々の灰色さに考えなかったことにした。 今日一日で俺はどんだけハートブレイクしたら気が済むのかな!? 暫く談笑していると、俺の“雪華《せっか》”を見たランが言った。 「君は刀使いなのかい?」 「ああ。前は和ノ国中を旅してたんだけど、その時に付いていた師匠が刀使いだったんだ」 これはその師匠に貰ったんだ。 そう言うと、ランはいいねえ、としみじみ言う。 「師と呼べる人がいるってのは、幸せなことだよ。……で、その人はどんな人なの?」 「……お前、興味あるの刀よりそっちだろ」 「えへへ、ばれた? で? で? どんな人?」 「そうだな…………」  う〜ん、と顎に手をやって頭の中で整理しながら話す。 まだ過去を省みて懐かしむような年齢ではないという自覚はあるが、師匠と旅をしてきた時のことを思い出すとあまりにも非日常で、ワクワクした。強くなって女の子にモテそうなタイミングがあっても彼女に邪魔され尽くしたせいでそれに関しては灰色だったが、全体として見れば充実した日々だったとくすりと笑ってしまう。 俺にとって師匠とは、全く訳のわからない、色々とブッ飛んだ人物だった。 見た目は俺よりも明らかに年下なのに、実際は俺よりも年上だった。二刀流の刀使いで、その実力はまさに一騎当千。凛と仁王立ちしていたかと思えば幼女のように甘いものにはしゃいだりする。とんでもない目に遭わされたのも一度や二度ではない。てかぶん殴りたいと思ったことも一度や二度ではない。 それでも、世界で一番尊敬できる師匠だった。  そこまで話すとランはお気に召したようで、目をキラキラと輝かせる。 それは年相応青年の表情で、さっきまでの大人びた雰囲気とは違ってなんだか安心した。 「女刀使いか。かっこいいね、会ってみたいな」 「師匠とは俺が実家に帰るために別れて、それ以来音沙汰なしだからな……。今頃何処で何してるんだか」 そう言うと彼は残念、と眉を下げる。 その顔に、そんなに残念がるなよ、と肩をすくめた。 「どうせ縁があればまた会うだろうな」 「…………僕、君のそういう所、ほんと好ましいと思うよ」 「……そうか?」 「そうだよ」 突然の言葉に訳が分からず一瞬思考が止まるが、彼の口調的に、悪い意味ではないだろうと深く考えるのはやめた。  そうやって騒いでいると、いつの間にか日は昇りきり、お昼になっていた。 宴もそろそろお開き、ということで商人たちは手を振りながら自分の店なり船なりに戻っていく。それを眺めて、朝から少し騒ぎすぎたわあ、と船長が苦笑する。 俺も騒ぎ過ぎたなぁと小さく反省。成長には反省が大事って師匠言ってた。 いつの間にか胸のどこかにあった新たな場所への不安も何処かへ行ってしまったようで、晴れやかな気持ちである。 「私はそろそろ船に戻るけど、もう二人だけで大丈夫?」 「うん!! ありがとう船長、ごちそうさま!!」 「困ったらいつでも私の船に来るねんで、暫くアスターにおるつもりやから」 「ありがとう、色々と良くしてくれて」 彼女はええのええの、ほなまたなー、と笑って港へと歩いていった。それを見送って、俺とメイは顔を見合わせる。 「じゃあ……この後、どうする?」 「どうしよっか」 取り敢えず今日はそこら辺をぶらぶらするか、と話がまとまり。市場へと足を向けたその時、 グォアアアアアッ!! ドゴォォォン!! 地鳴りのような大きな音が響き、港の方で火柱が上がった。 ----------------------------------------------------------------   悲鳴が聞こえる。 爆音は立て続けに鳴り響き、地鳴りのような音も留まるところを知らない。 何があったのかという混乱の中で俺はメイを宿の部屋に放り込んだ後、すぐに港へと走った。 港から逃げてくる人々の中を逆走し、その中に先程まで酒場にいた顔を見つける。 「すみません!! 何があったのか教えてください!!」 「ああ!! さっきの坊主か!! 何だかよくわからねえが、突然海竜種が現れて、暴れだしたんだ!!」 「海竜種が!?」  海竜種とは、海に棲む竜の種族のことである。普段は行くことが困難な海域にある巣にいることが多いことが知られている。竜と言うだけあり、その力は計り知れないが、基本的にこちらから何もしなければ襲ってくることはない。仮に何かしたとしても、港まで来ることはまず無いはずだった。 俺の知識が間違っているのか? 不安になるが今はそれに構っている暇はない。 「なんでまた海竜種が……。ありがとう、気をつけて!!」 「え!? ちょ、坊主!? 危ないぞ!? ……行っちまった……」  港に着くと、そこは酷い有様だった。  グォアアアアア!!  キシャアアアアア!!  ドガァァァン!! 「おいおい……。一体だけじゃないのかよ……」  暴れていた海竜種は、一体ではなく、恐らく群れと思われる十数体だった。その瞳はまるで理性がなく、ただ感情に突き動かされているようで。  ますますありえない、と思わず口が悪くなってしまったとき、海竜種の一体の横っ腹に何かが当たり、爆発した。見ると、王国の兵士達が竜達に向かって攻撃をしている。 流石は三大国の兵士、士気もさることながら、攻撃力も高い。だが、そんな兵士達も十体以上の竜相手では分が悪く、押されているようだった。 いくら王国兵がいても、俺もただ見ている訳にはいかない、てかこれでのこのこ逃げたら師匠に半殺しにされる。 とにかく“雪華《せっか》”を抜こうとしたその時 グオオオオッ!! 「!?」 海竜種の一体が何かを見つけたように突進していく。その先には 「船長!?」 頭から血を流した船長がいた。腕には小さな女の子を抱いている。 突進してくる竜に気づいた彼女はその子を抱えて逃げようとするも足を怪我しているようで、動けない。女の子だけでも逃がそうとその背中を押しても、怯えきった少女は船長の服を握り締めて離さない。 女の子を逃がすのは不可能と悟った彼女はその背に庇いながら魔術式を展開させる。 「無茶だッ!!」 叫んで俺は全力で地を蹴った。空中でベルトから常備している閃光弾を取って竜の視界に入るように投げつける。 パァァァァン その巨体が怯んで立ち止まったところに更にその背中を蹴って頭上へと飛び上がった。 刀の鯉口を切り、抜いて両手で構える。 大きく息を吸い、それに霊力を流し込みながら叫んだ。 師匠に三年間みっちり叩き込まれた霊術の力、見せてやる!! 「舞刀術《ぶとうじゅつ》·竹《ちく》!!」 刀身が霊力を纏う。 狙うは脳天。 落下のスピードと全体重を掛けて突き立てる。 “雪華《せっか》”から放出された霊力が竜の頭を貫き、喉元まで突き抜けた。 ウ グォァァ…… どっしりとした身体がぐらりと揺れる。俺は手早く“雪華《せっか》”を抜き、そこから飛び降りて船長たちの前に降り立った。竜が倒れ、大きな波が立ち、ばっしゃーん、と石畳の地面が濡れる。 よっしゃいいとこに入った見たか俺の霊術!! 一瞬自画自賛をして、はっと振り返った。 「船長!! 大丈夫か!?」 「おん、おおきに。怪我もそんな大したことあらへんよ」 「よかった……。君も、大丈夫か?」 「う、うん!! ありがとう、お兄ちゃん!!」 ぱあ、と花のような笑顔を見せる女の子。 メイもこんな時期があったなぁ……懐かしいなぁ……。 今頃宿にいるであろう妹を思って遠い目になりかけるがそんな場合じゃない。 そして駆け寄ってきた王国兵に二人を任せる。 海竜種たちの方を見ると、理性が無いのに加えて、仲間を倒された怒りが見て取れた。 あー、狙われたな。 殺る気がすげぇ、と現実逃避に走る。 しかし何度も言うが今は遠い目になっている場合でも、現実逃避をしている場合でもない。 とにかく船長たちから竜達を遠ざけることだけを考えて兵士の静止の声を背中で聞きながら走る。そのまま一番近くにいた大きなヒレを持ったものに目をつけ、その正面に躍り出た。 キシャアアアアア!! 正面からの威嚇めっちゃこえぇぇ!! けどやるしかない!! 咆哮を上げる竜に刀を振るう。 「舞刀術·松《しょう》!!」 刀身から放たれた霊力を帯びた風がその全てのヒレを斬り落とす。あ、やべ港の側の出店の屋根がちょっと斬れましたすみません。 弁償は出世払いでお願いしていいですか、と恐怖を紛らわせるために顔も知らぬ店主に謝りながら痛みに暴れる頭に向かって飛び上がり、怒りに燃えた両目を斬りつけ、視界を奪う。 パニックに陥った竜は出鱈目に水のブレスを放ち、そのいくつかが仲間の海竜種に命中し、傷を負わせた。 それはありがたいが、街の方に飛ばされても敵わないのでおとなしくなってもらうことにする。 「あっぶないな!! おとなしくしろ!!」 「舞刀術·梅《ばい》!!」 霊力を込めた“雪華《せっか》”を勢いのままに振り下ろす。竜なだけあって、その鱗は鋼鉄のように硬く、衝撃が腕に走る。 びき、と腕が鳴った気がしないでもないけど気のせい気のせい。 思わず力が抜けそうになったが気合でそのまま首を落とす。 「いっつぅ……っ!!」 これ程の衝撃は師匠の刀を受け止めた時と同じ位だ。痛い。 今ふと思ったけど竜の鱗を思いっきり斬りつけるのと反動が同じくらいってどういうことですか師匠。そんなもんいつも俺に振り下ろしてたんですか。 心の中で師匠にツッコミを入れながら竜の血溜まりに着地して、涙目で残りの竜の数を確認すると、兵士たちの尽力もあり、その数は最初の四分の一程までに減っていた。 「あと三体、かっ!!」 涙をぐし、と袖で拭いてから“雪華《せっか》”を構え直し、此方に身体を向けた三体をどうするか算段を立てながら走っていると ザッパァァァァァン 俺の横の海が膨れ、四体目の海竜種が姿を現した。 「うっ、そだろ!?」 その鋭い鉤爪を刀でやり過ごすと、急に目の前が陰る。 「!!」 先程の三体のうちの一体だ。その口がブレスを吐く予備動作をしているのを確認した俺はほぼ本能のままに身をかがめる。 ちり、と俺の髪を掠めて水の塊が飛んでいき、海から出てきた方の竜に当たる。当たりどころが悪かったのか、それはそのまま水底に沈んでいった。 ラッキー、と思うのも束の間、あと二体いた別の竜を思い出す。 やっば、どうしよう。 サアア、と血の気が引く音を聞いた俺に二体が口を大きく開ける。そこで水が急速に球状になっていくのが見えた。 「オワタ……」 師匠に教わったこういうときに使う言葉を小さく呟いたその時 「撃《て》ーーーーーっ!!」 ズダダダダダダーーーッ!! そんな大きな掛け声と共に二体に鉄の雨が降り注ぐ。それらはその身体に突き刺さると、爆発した。 ナンデスカイマノジュウゲキ。 傾く二つを見た俺は訳がわからないがとにかく目の前の一体に意識を集中させる。丁度胴がガラ空きだ。 一撃で決める。 「うおおおおおっ!!」 本日二度目の竹が、その心臓を貫いた。
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