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「ふっかーつ!」  トレーニングルームの中心で、蘭李は両手を上に上げる。くるりと振り向き、うずうずと体が動き始めた。  結局五日間、蘭李は学校を休んだ。さすがに五日も休めば完全に治り、むしろ休む前より元気にさえ見える。 「特訓しよう! 最近ホント動いてないからなまってる気がする!」 「おお、やる気だな」 「じゃあうちとやろー! 蘭李!」  そう言いつつ雷が取り出したのは、弓。蘭李はポカンとし、その弓を指差した。 「………それ弓だよ?」 「うん! いいの! 最近弓使い始めたんだ!」 「ええええええええええ⁈」 「槍耶も銃使ってるよー」  バッと蘭李が勢いよく振り向く。その先には、銃を持つ槍耶。蘭李はあんぐりと口を開けた。 「いつの間に………⁈」 「ちょうど蘭李が休み始めた日からだな」 「言ってよ!」 「サプライズだよ!」 「どんなサプライズだよ!」  わいわい騒ぐ蘭李達。そんな中、ピーンとひらめいてしまった白夜。全員を集め、無邪気な子供のように目を輝かせた。 「せっかくだしさ、皆で使ったことない武器使って戦ってみようぜ!」  全員の目が丸くなる。しかし次の瞬間、雷の表情は一気に明るくなった。 「いいねー! やろう!」 「ええっ⁈ それ雷や槍耶以外は不利なんじゃ……」 「五日しかまだ経ってないし、そんなに上手くなってないよー!」 「俺もその方が助かるかな。まだまともに当てられないし……」 「私らも、弱い状態の雷達と戦ってもあんまり身にならないしさ。いいじゃん?」 「まあいいか……」 「健治にもっと武器無いか聞いてくるねー!」  紫苑が納得する前に、雷はトレーニングルームから叫びながら出ていった。槍耶は海斗に、教わったことを確認している。苦笑いを浮かべる蘭李の隣で、紫苑は困ったように腕を組んだ。 「何使おうかなあ」 「遠距離系とかは?」 「ああ、いいな」 「あと、短剣とかナイフとかいいんじゃね? 剣とは全然リーチ変わるし」  蘭李と白夜の提案に頷きながら考え込む紫苑。その背後で、海斗が槍耶の槍を眺めながら呟いた。 「俺は槍でいく」 「海斗も剣使えるんだっけ」 「ああ」 「私は弓かなー。小刀とか薙刀は使えるし、銃は少し使ったことあるし」 「あたしも………弓がいいかな」 「銃じゃなくて?」  白夜の質問に、蘭李は驚いた。なんで―――というような表情をしている。白夜は笑いながら答えた。 「弓って結構力入るよ? 反面、銃なら簡単に撃てるし」 「反動はあるけどな」 「まあね。でも弓よりマシっしょ」 「だろうな」 「えっと……その……」  何かを言おうとしている蘭李。しかし遮られるように、慌ただしく健治とメル、それから雷が戻ってきた。メルは両手に、三つ積み重ねた段ボールを抱えている。段ボールからは槍の刃先や弓の一部分が見えていた。 「面白そうだねえ! 新たな才能が発掘されるかもよ!」 「健治テンション高っ」 「この中に武器が入っておりますので、ご自由にお使いください」  メルが段ボールを床に置く。覗き込むと、剣やら弓やら、たしかに武器が入っていた。白夜が入っていた短剣を取り、まじまじと見る。一見すると普通の短剣。刃を指で押してみると、刃はぐねりと曲がった。 「偽物?」 「そうそう。流石に本物で慣れない武器を使われるのも危ないからね」 「抜かり無いなー、健治は」 「まあね」  健治がニヤリと笑った。紫苑は「よし!」と意気込んでしゃがみこんだ。 「俺、ナイフ使ってみる!」 「おおー! 紫苑はナイフかあ! うち結構有利なんじゃない⁈」  紫苑が段ボールからナイフを、雷は弓を取った。海斗は無言で槍を取り、槍耶は銃を取る。白夜は弓を取って、蘭李を見た。 「蘭李は? 銃でいい?」  というかもう、弓は残ってなかった。蘭李は困ったように銃を見つめ、しゃがみこんだ。白夜の隣で段ボールの中を漁り始める。 「あ、あたし、やっぱ短剣にしよっかな」 「えー、蘭李短剣? コノハ伸び縮みするし、結構慣れてるんじゃないの?」 「あーたしかに。じゃあ槍系もアウトだな」 「そうすっと、やっぱ銃でいいんじゃねぇの?」 「え………う……うん………」  明らかに良くない、といったような表情で返事をする蘭李。おそるおそる銃を手に取り、じっとそれを見つめた。その反応に多少の違和感を覚えたのか、白夜と健治が不思議そうに彼女を見つめる。一方全く気にしなかった雷は、バッと右手を上げた。 「ジャンケンで三チームに分かれよ!」 「オッケー」 「いくよー! さーいしょーはグー!」  じゃんけんの結果、蘭李と白夜チーム、雷と海斗チーム、紫苑と槍耶チームとなった。白夜と蘭李だけ、二人とも遠距離武器のみのチームである。弓の持ち加減を確認しながら、白夜は蘭李をちらりと見る。 「どうする……って言ったって、距離を取って戦うしかないんだけど」  ルールは武器のみ使え、魔法は一切禁止である。胸もしくは額につけたマトが攻撃されると脱落。審判はメルがやるから見落としは無い、と健治は主張した。その言葉に若干の不安は感じるも、六人は了承した。 「あの、ハク、あたし、ホントに銃使うのヘタだから……」  蘭李がボソボソと呟く。白夜は唖然とし、不審がりながら彼女に言い放った。 「当たり前じゃん。雷と槍耶はともかく、皆使えない武器をわざと選んでるんだから。そんなことわざわざ言わなくても分かるよ」 「あ、そ、そうだよね……ごめん……」  蘭李は苦笑いをして、顔を背けるようにくるりと背を向けた。そんな背中に、白夜は不審を抱く。蜜柑達といい、一体何があったのだろうか―――彼女は辺りを見回す。どこかへ出かけているのか、華城の幽霊達は誰もいなかった。 「じゃあ始めるよー」 「皆さん準備をして下さい」  メルに促され、六人は各々武器を構える。三角形状に三チームが位置しており、静かに睨み合っていた。 「では………スタートです!」  とは言われても、全員慣れない武器で動けなかった。しかも六人中四人が遠距離系なので、そもそも激しく動く必要もない。 「うう……怖いけど行くしかない!」  硬直状態を崩したのは紫苑だった。海斗に向かって駆けていく紫苑。海斗は槍を構え、近付かせないように迎え撃つ。その背後では雷と槍耶が睨み合っていた。 「これチャンスだぞ。今のうちに誰か落とそうぜ」 「う、うん……」  白夜は弓を雷に構えた。しかし、想像以上に力が必要で、思わず半端に手を離してしまった。矢が弱々しく床に落ちる。それに気付いた雷が、狙いを彼女に向けてきた。 「海斗! そっち任せた!」 「分かった」  雷が矢を放つ。白夜は左に飛んで避けた。さらに追撃が何発も飛んでくるが、それも全てかわした。しかし反撃する暇はない。彼女はちらりと目をやった。蘭李は未だスタート地点から動かず、しかし警戒はしているようだった。 「蘭李ッ! こっち!」  白夜が叫ぶと、蘭李は無防備に彼女へと走っていく。そこに容赦なく矢が飛んできた。蘭李は急停止し、かろうじて矢から逃れる。 「二人で雷を狙うぞ!」 「う、うん」  浮かない顔をして返事をした蘭李だが、白夜とは反対方向へと走った。雷は蘭李を狙っている。白夜は急停止し、急いで弓を構えた。 「――――――ッ!」  急に雷が白夜の方を向き、矢を放った。咄嗟に彼女も矢を放つ。彼女の矢は床に落ち、頬に雷の矢がくっついた。 「あー、外れた!」  悔しがる雷。白夜は矢を引っ張って取った。吸盤の付きが良く、取ると頬を痛そうにさすった。少しだけそこが赤くなっている。  蘭李は海斗に狙われていた。海斗は紫苑を倒し、目標を彼女に変えていたのだ。その後方では、槍耶が狙撃する機会を窺っている。  海斗が槍を振り下ろした。蘭李が右に避けると同時に、発砲音が鳴り響いた。避けた勢いで床に転がる蘭李。その発砲音に、思わず白夜が視線を逸らす。 「よそ見厳禁!」  一瞬の隙に、白夜の額に何かが勢いよく当たった。そこには矢がくっついていた。メルが彼女のもとに降り立った。 「白夜様、脱落です」  メルに言われ、白夜は額から矢を引っこ抜いた。健治と紫苑が観戦している壁際へと向かう。健治がひらりと手を上げて彼女を出迎えた。 「見事な油断っぷりだったね」 「ちょっと気になっちゃって……」 「何が気になったのかな?」 「さっき、誰が撃ったのかなって」 「さっきのは蘭李だよ。でも海斗の、ちょうど目の間辺りに当たったから無効」  蘭李は未だ海斗に追われている。そこに雷が加わり、雷は槍耶に向けて矢を放った。槍耶は屈んで避け、銃を二発放つ。どちらも雷の胸のマトをかすめた。 「ああー! 槍耶おしい!」 「雷より狙いは定まっているねえ……案外いいんじゃない?」  蘭李が逃げ続けるせいか、海斗が立ち止まり息を整えた。蘭李も呼吸を整える。その奥で三発の発砲音。メルが雷のもとに降り立った。 「雷様、脱落です」 「うそー! くやしー!」  雷が虚空に叫ぶ。悔しがりながら、駆け足で健治達のもとへ向かった。 「お疲れ。惜しかったね」 「やっぱ銃相手だと弓は不利かなー」 「弓は慣れないと生かせないからねぇ。色々工夫を入れれば勝てると思うよ」  槍耶が海斗に銃口を向け、一発放った。海斗は左に避ける。そのまま一気に槍耶との距離を詰めた。槍耶は襲いかかる槍を必死に避ける。 「蘭李、今のうち撃っちゃえばいいのに!」 「今撃っても無駄撃ちになるだろ」  蘭李は突っ立って観戦していた。銃を持つ左手は、微かに震えているようにも見える。白夜は目を凝らして彼女を見た。 「震えてる……?」 「でも蘭李、ちょっと距離近いよねー。もっと遠くにいた方がいいんじゃないの?」 「あんまり遠くにいても当たんないからじゃん? 慣れてないんだし」 「そっかー。銃って弾小さいからどこに飛んだか見にくいよねー」 「それは言える」 「あれ……?」  白夜がはたりと静止する。困惑したような表情に、雷は不思議そうに首を傾げた。 「どうしたの?」 「いやあの………誰か蘭李に、銃の使い方教えた?」  雷と紫苑は顔を見合わせた。しばらくそのまま止まり、一緒に白夜を見る。 「教えてない……んじゃねぇの?」 「なんで? あの銃難しいの?」 「いや………分かんないけど……」  白夜達は無言で目をやった。ちょうど海斗が槍耶を撃破したところだった。海斗は流れるように蘭李へと進路を変更する。蘭李は再び逃げ始めた。 「あーあ……やっぱり銃使える奴にはなかなか当たんないなー」  槍耶がとぼとぼと帰ってくる。白夜はすぐ彼に確認した。 「槍耶、その銃って難しい?」 「え? いや、難しくはないかな」 「弾って始めから入ってた?」 「え? 俺が入れたけど………なんで?」  白夜は槍耶に返答せずに考え込んだ。槍耶は不審そうに彼女を見る。 「何なんだ?」 「さあ……」 「あ、終わったみたいだよ」  雷の一言に皆が顔を上げると、海斗と蘭李がこちらに歩いてきていた。どうやら海斗が勝ったようだ。雷達は二人を出迎える。 「海斗、お前何でも使えるなあ」 「大体の動きは同じだろ」 「うちもっと弓練習するー! 絶対銃に勝ってやる!」 「俺も命中率もっと上げなきゃなあ」 「蘭李もおしかったね。あと少し上に当たっていれば勝てたのに」 「え?」  健治にかけられた言葉に顔を上げた蘭李。彼女はかなり汗をかいており、少しだけ息も上がっていた。 「あ、ああ……そうだね……あと少し上だったら……」  慌てて顔を逸らす蘭李。足早に段ボールのもとへ行き、しゃがみこんでカチャカチャと何かをやり始める。白夜は後ろから気付かれないように、その様子を窺った。それを見た瞬間、彼女は目を見開き、思わず言葉が漏れた。 「え………?」 「よーし! 紫苑! 斧でいいから練習付き合って!」 「え、斧でいいのか?」 「いいよ! 紫苑ナイフ使うの下手くそすぎだから!」 「うっせ!」 「海斗、ガンナー対決してくれ!」 「ああ」 「蘭李………あのさ……」 「雷さーん! あたしも入れてー! コノハでー!」  白夜の呼びかけに気付かなかったのか、蘭李は彼女を通りすぎて雷達のもとへ走る。雷と紫苑は彼女を迎え、トレーニングルームの中央へと向かっていく。槍耶と海斗も、彼らと距離を取って武器を用意した。白夜はしゃがみこみ、おそるおそる段ボールに手を突っ込む。蘭李が置いていった銃を手に取り、息を飲んだ。  ――――――あいつは今、慣れた手つきで弾を外していた。
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