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 拝啓故郷の父さんと母さん。俺は今 「兄ちゃん、大っきい!! 水路通ってる!! 凄い!!」 「うん、そうだな、水路だな、うん」 三大国の一つ、海の覇者と呼ばれるマリテの王宮にいます。  うわあ王宮大きい。 その予想以上の大きさにもうそんな感想しか出ない。 そんな俺とメイが今王宮にいるのには、言わずもがな、昼間の海竜種襲撃事件がきっかけであった。  港を襲った海竜種の群れを壊滅させた後。 「兄ちゃん!!」 「アカリ!!」 「メイ!! 船長!!」 王国兵が設置したバリケードまで行くと、危険が去ったことを聞きつけて早くも来ていたメイと、頭に痛々しい包帯を巻いた船長が出迎えてくれた。俺は思わず顔を顰めてしまう。傷跡が残らないか心配だ。 「船長、大丈夫か? すっごい痛そうだけど」 「おん。見た目ほど痛くはあらへんよ。ちょいと切れただけや」 彼女の言葉は本当のようで、本人は怪我などしていないようにケロリとしている。それを見てよかった、と息をつくと、その薄い唇がにいっと弧を描いた。 「にしても、よお一撃であんなん沈められるわ。……舞刀術、やっけ?」 首を傾げて探るように見てくるその顔に肩を竦める。 「師匠に教わったんだよ。……てか、師匠だったら一撃で三体くらい余裕だろうし」 俺はまだまだ未熟だ、と言うと師匠どんなやねん、と突っ込まれた。 どんなやねん、と言われても俺の中で師匠は半分人間を卒業している。多分人外、としか答えようがない。 俺が苦笑いをすると、彼女が顎に手をやり、小さく口を動かす。 「これは凄いもんの見過ぎで感覚狂ってんな……」 「? 何か言った、船長?」 「いんや、何も」  暫くそうやって話したり、声をかけてきた兵士たちともやり取りをしていると、急に周囲がざわめき、ざぁ、と人が捌けた。何事か、と思っていると凛とした声が耳に届く。 「舞刀術を使っていた旅人ってのはお前か?」 見ると、俺と同じくらいの年であろうとてつもない美青年がいた。 え、何あれ足長い顔立ちめっちゃくっきりしてる美人ガイコクジンコワイ。しかも後ろに控えてしる二人の従者っぽい人たちも顔が整い過ぎなんだけどナニコレ。 ランといいこの人たちといい何なの外国の人ってみんなこんな美人なの。 心が劣等感に泣き叫んでいるがぐ、と堪え、彼の背負っている銃を見やって返した。 「ああ。さっき銃撃してくれたのはお前か? お陰で助かった、ありがとう」 すると彼は目を弧にして笑う。わあいい笑顔。 美青年っぷりがさらに引き立っております。彼の美青年度を数字に表す機械かなんかを使ったら機械がぶっ壊れそうです。現場からは以上!! 彼はそのすんばらしい笑顔のまま口を開く。 「人が困っていて、自分が助けられる状況にいたら助けるのは普通だろ? それより訊きたいことがあるんだが、いいか?」 その言葉にもちろん、と答えると彼は真剣な顔になった。 「港に現れた十二体の海竜種のうち、四体を倒したのは本当か?」 ワントーン下がった声に俺はふむ、と思い返しながら指折り返す。 「俺がしっかり倒したのが三体、だな。あとの一体は倒したうちの一体のブレスが当たって倒れた」 そこまで言って聞いてきた本人を見やると、顎に手をやって、何かを考え込んでいるようだった。暫くそうやると、よし、と小さく零す。 「お前、名前は?」 「……和ノ国の、アカリだ」 彼はならアカリ、と言葉を続ける。 「俺はベネディクト·マーフィーだ。お前のその腕を見込んで協力してほしいことがあるんだが、来てくれるか?」 「んん?」 思わず声が漏れる。頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。ベネディクト·マーフィーと今この美青年は言ったか? 俺の記憶が正しければたしかその名前は―――― 「三大国の王子が旅人に頼み事だなんて、余程の事なんですね?」 冷静な妹の声にはっとする。 そうだ、ベネディクト·マーフィーはこの国、マリテの第三王子の名だ。となると、王国兵の様子からしてもこの美青年がベネディクト王子……? え、俺ここにいていいの? 大丈夫? 思いっ切りタメで喋ってたよ? 不敬罪とかにならない? 俺が混乱していると彼は妹の声に察しがいいな、と笑う。 「確かに俺はこの国の王子だ」 「最近、海竜種の様子がおかしいという情報が多いんだ。 海竜種の様子がおかしいってなったら海や彼ら竜と共に生きるこの国にとっては死活問題、ちょっと調べてみたら海竜種の巣に何かあるらしくてな。 そこに殴りこんんっ、お邪魔して詳しく調査することになった。その為の人手が必要、というわけだ」 (今こいつ殴り込みって言いかけなかった? というかもしかしてこれって俺殴り込み要員……?) (多分、てか絶対そうでしょ。) メイと目で会話する。 え、なんかこれ面倒事? 俺この国に来たばっかりというかまず外国初めてなんですけどそんな外国初心者に降り掛かっていい問題なんですかコレは。 船長に助けを求めたくなったが、あいにく彼女は王子が来る直前に医者らしき人に引きずられていっている。 わぁい頼れる大人がいない!! 顔に対外用の愛想笑いを貼り付けて固まる俺にかまわず、王子はそれに、と目を細めた。 「お前に、個人的に興味がある」 え、なにそれなんかこわい。 その目に背筋を緊張が走る。まさに圧倒的な格式の差をここで見せつけられた気分だ。一瞬震えそうになった俺の足の脛をメイが小さく蹴る。 痛い、この子結構バイオレンス……。俺こんな乱暴な娘に育てた覚えはありません!! しかしそのお陰で動けるようになった。腹に力を込めつつ、それを悟られないように口を開けた。 「そういう事なら、協力する。……だけど、それなりに危険な仕事だろう? もう少し詳しい説明があってもいいと思うぞ?」 出来る限り、不敵に話す。そうでもしていないと、彼の雰囲気に飲み込まれそうだったから。何もできないまま飲まれて、流されるのはなんか癪だ。 すると彼はそりゃそうだよなー、とへにゃりと笑うと、 「じゃあ、続きは王宮で話そう」 ついてこいよ、と踵を返す。俺はメイと一瞬目配せをして、互いに頷き合うと、その後に続いた。  こうして、マリテの王宮に来たわけだ。 王宮までの船で、王子は明るく、快活な青年であることが分かった。 王子であるからと身分の違いで距離を置かれるのを好まないらしい彼は俺とメイにベネディクト、と呼び捨てで呼ぶように言ってきた。王子と同年代にまで呼ばれるのはこそばゆいんだよな、という年相応の笑顔を添えて。 美青年の笑顔を添えられたら頷かずにはいられませんよね、ええ。 その姿はかつての旅で伝え聞いた、明朗で豪快、そして親しみがあると評判のマリテの王族、マーフィー家を体現したかのようだった。 彼に仕えて長いというレヴィさんとワーナーさんもいい人だ。 ワーナーさんは特にベネディクトの事を慕っているらしく、その主君自慢はベネディクトが真っ赤になって止めるまで続いた。あの褒め言葉の羅列は言葉による表現の限界に挑戦しているとしか思えなかった。端的に言うと取り敢えずヤバかった。 王宮に着くと客間に通され、ベネディクトは資料を取ってくる、とワーナーさんを連れて出ていった。残された俺たち兄妹はレヴィさんの勧めでそのふかふかのソファに腰を沈める。 やばいなにこれふかふか、ふわふわ。こんなの初めて。 と床文化で慣れないソファに小さくはしゃぐとレヴィさんが微笑ましそうに眺める。 実に平和な光景だ。 そう、平和だった。 「ぶはぁっ!!」 という声と共に王宮中に張り巡らされているという水路から、見た目麗しい青年が飛び出してくるまでは。 「ア、アルバート王子ぃッ!?」  というレヴィさんの悲鳴ではっと我に帰る。 え、王子? この水も滴る男前を体現しているこの人が? 確かにベネディクトによく似ていて、お兄さんであろうことは予想がつく。でも何故に水路から。 「アンドレアスぅぅぅっ!! お願い、匿ってよぉぉぉっ!!」 水路から出てきた勢いのまま泣きつく彼を必死に押し返しながらレヴィさんが叫ぶ。どちらも必死の形相だ。 「ちょ、近いです濡れますっ!! てかお客さんいらっしゃるんですから何かは知りませんがとっとと捕まってくださいっ!!」 酷いぃぃぃと泣くアルバート王子は、その言葉で初めて俺たちに気がついたようだった。 「えっ、うそ客人!? そんな予定あった!? やだ恥ずかしいっ!!」 「ええ全くですよ恥ずかしい!! 予定はありませんでしたがベネディクト王子が例の計画のために連れて来たんですよわかったなら出ていってください!!」 ノンブレスで言い放ち、グイグイと王子を押し出そうとする彼に王子は待って待って待って!! と騒ぐ。 「例の計画ってあれだよね!? 海竜種の巣に殴り込みげふんげふんお邪魔するってやつ!!」 「そうですよってかもう殴り込みって言っちゃってるじゃないですかもう!!」 あ、うん。やっぱり殴り込みであってたか〜。 決死の攻防が続くのをよそに遠い目になる。 身体全体で王子を押すレヴィさんだが、彼はそれを気にも留めず、顔をパアっと明るくさせた。 「おー!! それなら見た感じあれかな!? 本隊が奥まで行く為の応援かな!? 酒場でもう求人締め切ったのにベネットが連れてくるとは思いにもよらなかった!! 刀があるってことは君もしかして刀使い!? もしかしてさっき兵士達が話してたのは君かな!?」 とてもわくわくした目で見られ、レヴィさんに目で助けを求める。正直このテンションについていける気がしない。しかし ごめんなさい、付き合って差し上げてください。 そんな目を返されるともう何も言えまい。仕方なく質問に答え始めた。  それから十数分質問に答え続け、ふとその質問が途切れた。 「………………?」 「………………」 「あの…………」 「んー?」 ニコニコしたまま首を傾げる王子。 「俺に何か、ついてます……?」 「んー、ついてるっちゃあ、ついてるね」 はっとして顔を服の袖で擦ろうとすると違う違う、と王子は笑う。 「顔には何もついてないよー。……ところで、祝福とかそういうの、受けたことある?」 「祝福?」 突然どうしたのかと思いながら思い返し、あ、と思い当たるものを見つけた。 「そういえば、祝福、とは違うかもしれませんが……。おまじないなら、前に旅してた時に師匠にされ……してもらったことはあります」  真夜中に叩き起こされて、 「おまじないをかけてあげよう!!」 と夜の森(魔獣生息)に放り込まれ、置いていかれたことは今でも根に持っている。丸腰で対峙する魔獣の群れ恐かった……。 愛刀である“雪華《せっか》”を貰ったのも死にそうになりながら朝日の差す森から這い出た時だ。雪華を差し出す彼女の顔を見て、ぶん殴りたいこの笑顔、と思ったのも覚えている。 ……あれホントにおまじないだったのか?  一歩間違えたら魔獣の晩御飯になってたなぁ……。 少し遠い目になっていると彼はははあ、とわかったような声を上げる。 「なるほどなるほど、よぉくわかったよ。これは見えなくてもベネットがすぐに気に入る訳だ」 何がよくわかったのか、というか見えてないって何!? と問う前に王子はすっくと立ち上がり、ドアまで歩いていった。 え、ちょ、ホント恐いんですけどなんか。憑かれてるんですか俺。ついているの変換がこれ以外に思い浮かばないんですが。ねぇちょっと。 色々言いたい事が多すぎて何から言えばいいのかわからない。 しかし彼はそんな俺のことを気にしない様子でじゃあねー、と部屋から出て行く。 少しして、廊下からバタバタ、ガッシャンガッシャンという鎧で走っているような足音と 「てんめえええええ!! こんなところにいやがったかあああっ!!」 「いやあああ!! ごめん、ごめんっば謝るから許してぇぇぇっ!!」 という怒鳴り声と悲鳴が聞こえてきた。 「……そういえば匿ってって言ってたな」 「忘れてたのかな」 「それがアルバート王子だから……」 なんか嵐みたいな人だったな……。 俺たちがぽかんとしているとガチャリ、と扉が開かれた。 「何これびしょびしょ!! 誰だよやったの!!」 ベネディクトだ。紙の束を抱えてぷんすこ怒る彼にアルバート王子です、とすかさず告げ口をするレヴィさん。 「またかよあの兄貴め……っ!!」 あとでシメる、と小さく呟いた彼はどさりとそれを机の上に置いた。 「説明に必要になりそうな資料だ。取り敢えず今の状況や、検討されえいる解決策などを話す」 その言葉に、俺は開いていた口を引き結んだ。
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