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 「な……っ」 濃い紫色の瘴気が滝のように降り注ぐ。竜玉が割れたせいか元気になったはずだった竜の長は苦しむように倒れ込み、大きな水飛沫が上がる。 ていうか今は瘴気の方がまずい。その下には老竜がいる。このままじゃ老竜が瘴気に穢される。 しかし、寸前で老竜の上に傘のように結界が展開され、瘴気から守った。見るとワーナーさんが手を伸ばして魔力を結界に注いでいる。 「レニー!!」 「とっととしてください、長くは保たないんですから!!」 ベネディクトが叫ぶが彼はそれに構ってられないとばかりに怒鳴った。老竜は改めて竜玉の台座に足をかけて登る。が、その足元に落ちた瘴気がじわじわと迫る。それは浄化班が素早く浄化していくが、降ってくる瘴気の方が多い。結界で穴を塞ごうにも瘴気の勢いに押されて張ることが出来ない。 それだけ、竜玉がこれまで耐えていたということだ。  それを見ていたベネディクトがくそ、と悪態をついて前に出た。 「ベネディクト!? 何するつもりだ!?」 「使えるモンは全部使う。それは俺自身でもだ!!」 彼はそう強く言い放つと穴の方向に手をかざす。そしてその形の良い唇が言葉を紡いだ。 「イ ネエヅ アビリツヤ ト プラヤ スパケ」 途端彼を中心にして魔力が放たれ、渦を巻く。今初めて分かった。この魔力は、光の魔力。五大属性のそれよりももっと強い魔力だ。 「ゴヅ ギヴェ メ ツハツ」 彼の発する呪文に合わせて魔力はどんどん強くなる。何の呪文かは分からない。けれど、呪文を発するということは彼が”魔法”を発動させようとしているのは明らかだった。 そして魔力が竜玉の間の地面に壁に沿って天井付近の穴まで到達する。それに気付いたワーナーさんがこちらを振り向いて何かを言っているように見えるが魔力が遮って聞こえない。 「ノワ イ ゴツ アルル スパケ!!」 彼がそのように言い切ると穴の縁がふるりと震えて少しずつ閉じてゆく。なるほどこれは、空間魔法だ。 しかし魔法は彼には負担が大き過ぎたようで、顎や首筋を汗が伝う。穴が小さくなって流れ込んでくる瘴気も少なくなったが浄化を行う魔術師たちも疲労が隠せずそのスピードが落ちている。 このままじゃ先にこちらの魔力が尽きて老竜が穢される。 くそ、どうすれば。 『キュイ!!』 「えっ? ちよ、暴れるな危ない!!」 頭を抱えたくなった時、子竜が身じろいで、俺の手を離れた。場にそぐわず、るんるんと上機嫌で瘴気が漂う中を飛んで行く。追いかけようとしても瘴気で進むことが出来ない。 「瘴気は毒だぞ!!」 叫んでも聞こえているのかいないのか踊るように子竜は老竜の真上、瘴気の滝に向かって迷いなく進む。 「……っ、やめろ!! 行くな!!!!」 『……キュ?』 竜のそばまで行った子竜がやっと振り返った時、ベネディクトの魔力が一瞬弱まったのかほんの少しだけ広がった穴から流れ落ちた瘴気が、子竜を包み込んだ。  「あ、あああ……」 瘴気に包まれた子竜に手を伸ばしても届くはずも無くそれは空を切る。目の前で死んだ、死なせてしまった。無邪気で何も知らない子竜を。 初めて、好意を抱いていた生き物が死ぬ瞬間を見た。 膝から力が抜けて、かくんと折れる。 まだ出会ってから数時間しか経ってはいないけれどそんな短時間でも俺によく懐いてくれた。この数時間で、俺はあいつになにかしてやれただろうか。いや、何もしていない。何もしてやれなかった。 その事実が、俺に重くのしかかる。 唇を噛んでうつむいた。  しかし、そんな俺をよそに突然驚愕の声が聞こえた。 「なんだっ!?」 「何がいるぞっ!!」 その声に顔を上げると流れ落ちていたはずの瘴気が一ヶ所に集まり、そこにいる”何か”に吸収されている。すでに地面に落ちた瘴気も然りだ。 それは、みるみる大きくなる。大きくなっていくうちにその形もだんだんくっきりしてきた。闇のような瘴気の中でそれだけが白く光り輝いている。 穴も瘴気が減っていくおかげか閉じやすくなったらしくどんどん小さくなり、やがて閉じた。後ろで力が抜けたのかベネディクトが膝をついた気配がする。 瘴気を吸収しているそれはまるで、巨大な竜が翼で自分の姿を包んでいるように見えた。 老竜の注目もそれに注がれているようで、この場の全ての視線が一点に集中する。 そして全ての瘴気を吸収し終えると、その光が収束してその姿が露わになった。 燃えるような紅蓮色。頭には角のような突起が二本。硬そうな鱗。身体に走る何本もの黒い魔力の筋。 一瞬してバサリとその翼が広げられて、それ――――巨大な竜の顔が見える。その黄玉のような瞳がぐるりと辺りを見回して、俺の方角で止まった。大きな咆哮が上がる。 『グオオオオオオオオオオ!!!!!!』 力強く羽撃いて竜は飛ぶ。起こった風がビュオッと音を立てて駆け抜けていった。竜はぐるりと竜玉の間を一周すると真っ直ぐに俺の元を目指して降りてくる。 ……えっ、待て待てちょっと待って。このままきたら撥ねられる!! そんな恐怖を感じて立ち上がろうにも俺の脚は仕事を放棄し力が入らない。 ぶつかる!! 目をぎゅっとつぶった。が、俺にぶつかってきたのは熱い風だけだった。 「…………? ……うぉあっ」 不思議に思ってちらりと目を開けると目の前に竜の顔ドアップ。ただのアップじゃない、そう、ドアップだ。竜の鼻息がフンフンと顔にかかる。熱い。 それに戸惑っていると竜はグリグリと俺に頭をこすりつけてきた。 これは……撫でろって意味なのか……? 触れと……? なんかめっちゃ熱そうな熱気放ってるんですけど……? 巨体を伏せてすり寄ってくるそれにそっと手を伸ばして、触れてみる。 あ……やっぱり鱗硬い……。あと思ってたよりは熱くはない。 思いながら撫でていると声が聞こえた。 『……マ…………』 「え? なんて?」 「ブッ」 「んっ」 なんて言ったのかよく聞こえなくて首を傾げると視界の端でハルイチさんとワーナーさんが崩れ落ちる。いやあんたら聞こえたのかよ今の。 こちらを見ていた老竜の目が細められた気がした。  老竜は瘴気が無くなったのでゆったりと台座に登り、割れて砕け散った竜玉の残骸の上に立つ。そして天を仰いだ。 『グオオオオオオオオオオン―――』 そう一つ咆哮を上げると足元からピキピキと宝石のように光る竜玉へと変化していく。 流れるように身体が竜玉に変わってゆく中で、老竜は俺たちを見据えて優しげな瞳で言った。 『ありがとう、礼を言おう。人の子よ、我が友よ、守護者たちよ。汝らの征く末に、未来あれ、栄光あれ、希望あれ――――』 そうして言い終わると同時に、新たな竜玉が誕生した。
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