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「すいとーと」  すいとーと。  日本地図でいう所の左下の部分。九州地方の中にある福岡県。その福岡県の中でもわりと活気がある方なのかもかもしれない博多の街。その博多の街で使われるらしい方言に博多弁という物がある。  その中に、「すいとーと」は確かに存在するのだが。  まぁ、ここでの意味は違うだろう。  何故なら、俺に限ってそれはありえないから。  ただ、ここで何も返答しないという選択肢は存在しない。  こんな俺にも普通に話しかけてくれる女子。その会話という貴重な体験を逃してしまえば、俺の青春はいよいよ灰にしかならないだろうから。  選択肢をミスるな。ここでの返答一つでルート分岐が決まってしまうと思え。    さて、どれを選べばいいのだろうか。  Ⓐ 俺もすいとーよ。  Ⓑ いきなりどうした?  Ⓒ いくら必要なんだ?  Ⓓ 結婚しよ。  ……。  まずは、一番選んではいけないだろうⒹだな。 「結婚しよ」 「は? 何を言ってるんですか?」  砕け散りますね。そして、不登校になって引き篭もりになるまでありますねこれ。  というか、ただの頭おかしい奴じゃないかあっはっは……。  はぁ……。  Ⓓだけはあり得ないな。ないない。あり得ない。  次だ次。  次はⒹと行き付く先はあまり変わらないだろうが、まだ少しだけ心のダメージは少なくなりそうなⒶを考えてみる。 「俺もすいとーよ」 「本気にしたんですか? 冗談に決まってるじゃないですか。ぷっぷっぷ……」  ……。  そう。揶揄われて、腹を抱えて笑われる未来しか見えんなこれ。不登校の引き篭もりにはならないけど、しばらく便所飯マンにはなるかもしれないわ……。  後輩からの愛の告白なんて妄想はさっさと捨ててしまえ俺。  次はⒷかな……。 「いきなりどうした?」 「だから、『すいとーと』なんですよぉ!」    ループ入るかな?  ゲームでいう所のいくら選んでも先に進まない無限ループの選択肢に行きそうですねこれ。  ゲームではなく現実だから、数回程度で途切れて、呆れられて「もういいです」になって終わるのだろうけど。  この選択もないな。  じゃあ最後のⒸか……。 「いくら必要なんだ?」 「へ?」  大方、この後輩のことだから、欲しい物があるけどお金が足りないから、ちょろそうな俺に何かをたからせようという腹だろう。可愛い顔しておねだりでもすればコロッと落ちてしまうレベルの、彼女いない歴=年齢の童貞の俺だからな。うわぁ、この後輩ちょーこえぇ。腹黒いよママン……。  まぁ、この選択肢なら、精神的ダメージではなく金銭的ダメージで済むからまだ救いは……。  救いはあるのか?  まぁ、他の選択肢よりマシか……。  よし。 「いくら必要なんだ?」 「へ?」 「『すいとーと』名前から察するに、『トート』。トートバッグかなにかの事だろう? 俺は、流行とかファッションについては全然詳しくなくてな、力になれなくてすまんが、俺でも手を出せる値段ならばプレゼント出来なくもないが?」 「へ? へ?」    おや?  なんか思ってた感触と違うぞ。  俺が病んで終わる結末にはならなそうだが、この選択肢じゃだめだったような気がする……。  まぁ、後悔したところで、現実って奴は巻き戻りは出来ないんだけど。セーブデータからやり直すなんていう都合のいい機能は備わっていない。ここは、このペースのまま、押してくしかないだろう……。 「だから、『すいとーと』とかいうバッグかなにかの話なんだろう? お前がいつも読んでるよくわからん雑誌とかに乗っててみつけたとかそんな話じゃないのか?」 「え、えと。ちが、ちがくて……。」 「違うのか? じゃあ、他の『すいとーと』の意味は……。」 「あぁあ。違うくないんです。全然違くないんです。えっと、今度博多で『すいとーとバッグ』っていうのが売り出されるらしくて、今度の土日のどちらかに、一緒に探しに行かないかなーなんて、思ってたり思わなかったり?」    あるのか、「すいとーとバッグ」とかいうよくわからんバッグ。  てきとーに話は繋げてみるもんだな……。  そして、お金だけたかられて終了なのかとも思ったが、これはデートのお誘いという奴じゃないだろうか?  俺がデート? まじで?  この俺がデート?   彼女いない歴=年齢のチェリーマンの俺が?  これは、飛び跳ねて喜んで、机とか壁とかに小指ぶつけて、痛くなって転げ回るまでありますね。しかも相手は、顔だけは可愛い後輩。先輩に対する態度とか、たまになるポンコツ具合とか、なんでこの陰キャの巣窟みたいな文芸部に入部してきたのとかいろいろ思うことはあるけど、隣を歩いていれば男としての自尊心的な奴だけは勝手に上がっていっちゃう可愛い後輩。自分からデートに誘って断られると心折れるからアプローチ出来ないけれど、そっちから誘ってくるなら話は変わる。  逃してはいけないこのイベントを! 「行く」 「へ?」 「行く。絶対行く。てか行かせてください」 「え、どこにですか?」 「博多。土曜の朝、駅前で集合な」  間に合うか分からないが、この後輩に恥をかかせないようにする為に、陰キャ童貞の俺は急いで帰って、まともな洋服とかを探さなければならない。いつもコンビニとかにいくレベルの恰好じゃ確実にアウトだ。そうと決まった俺は後輩の返事も聞かずに鞄を掴み、文芸部の部室を後にする。「一緒に行きたくありません」なんて返事とか聞いてしまったらそれこそ部屋に閉じこもるからな。後輩が何かを言ったような気がするが俺は聞かないぞ。走れ俺。週末までもう時間はないぞ……。 「『すいとーとバッグ』なんてないのに何誘っちゃったんだろ私……。」
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