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 7 新たな世界がわたくしたちを待っていますわ!  翌日、教会の諜報部へ顔を出すと、大司教様からの指示が伝わっていたのか、すぐに担当者が飛んできました。  担当者からの情報をまとめると、新たに分かったのは次の三点でした。 一.現辺境伯は、カレル・プリンツ前辺境伯の実弟。前辺境伯の突然の死で、跡継ぎのいなかった前辺境伯に代わり、当主の座に就いた。なお、わたくしはいないものとして扱われ、辺境伯の爵位継承順位ははく奪されている。 二.前辺境伯と現辺境伯との兄弟仲は悪くはなかった模様。権力争いでの前辺境伯暗殺の線はないとの潜入調査員からの報告。 三.前辺境伯は特殊な能力を持っていたらしい。その自身の異能のため、前辺境伯は異能を持つ者を厚く保護するという方針を持っていた。この方針が現当主にも受け継がれ、辺境伯領では霊素持ちを保護する方針を掲げている精霊教を受け入れた。 「前辺境伯と、現当主との仲が悪くなく、しかも、現当主の権力欲からの爵位奪取でもない……。本当に、わたくし、なぜ捨てられることになったのでしょうか。さっぱりわかりませんわ。もしかして、わたくし、現辺境伯家に疎まれてはいない可能性も?」  現当主の陰謀で、爵位継承に邪魔なわたくしが厄介払いされた。どうやらその線は薄いとの教会の判断のようです。  であるならば、ますますわたくしが養子に出された理由がわかりません。なぜ、いないものとして、爵位継承順位のはく奪まで行われたのでしょうか。  今の情報だけでは、わたくしが疎まれているのかどうか、いまいちはっきりとしません。  爵位継承問題で排除されたわけではないので、疎まれてはいないのかもしれません。ですが、いないものとして扱われている事実もあります。であるならば、疎まれている可能性も捨て切れません。 「うーん、なんともいえないかなぁ。もしかしたら、前当主と現当主との関係性とは別の問題が、アリツェ自身にあったのかもしれないし」 「わたくし自身の問題……? とは何ですの」  わたくしにはまったく身に覚えがありません。当然です。生まれ落ちたばかりの頃について、覚えていろというほうに無理があるのですから。 「ごめん、ボクもわからない。思い付きで言ってみただけだし……」  きまりが悪そうに、ドミニク様は後頭部を掻きました。 「うーん……。あとはやはり、直接現地で情報収集をするしかないようですわね」  さすがに、これ以上の情報は集まらないでしょう。今、精霊教会の諜報部以上の情報を持てるのは、国王直属の隠密部隊くらいのものでしょうから。  残念ながら、そんなところにコネはありません。 「幸い、大司教からの紹介状ももらえたんだ。頑張って真実をつかもう」  使える手札はすべて、有効に使うべきです。せっかくもらった紹介状、辺境伯家の調査にしっかりと役立たせてもらおうと、わたくしは心に誓いました。  ★ ☆ ★ ☆ ★  さらに翌日、わたくしとドミニク様は王都の繁華街にいました。  今後の旅の消耗品の買い付けが主目的でしたが、同時に、気分転換も兼ねていました。  グリューンにはなかった、しゃれたドレスが飾られたショーウィンドーに、わたくしの目はくぎ付けになっていました。  おしゃれに興味がなかったとはいえ、やはり女の子です。華やかな衣装を見て、心躍らずにはいられません。 「アリツェ、良かったら少し試着してみないかい?」  ドミニク様がとんでもないことを言い出しました。 「え!? だ、ダメですわドミニク様。わたくしのようなちんちくりんが、あのような素敵なドレスを着ても、皆に笑われるだけですわ」  冗談ではありません、いい晒し者です。わたくしはぶんぶんと頭を振ります。  第一、恥ずかしいじゃないですか。普段見せない姿を、よりにもよってドミニク様の前で披露するだなんて。かぁっと顔が熱くなりました。 「そんなことはない! 絶対に似合うよ、アリツェ」  ドミニク様は真剣な表情を浮かべ、わたくしの両肩に手を置き、見つめてきます。  妙な熱っぽさを感じるその瞳を見ると、たまらなく身体が火照ります。  最近、わたくしは自分がおかしくなったのではないかと思うのです。全身に、なにやら訳の分からない熱を感じることが多いのですから。  自身の身体の変化に戸惑っているわたくしの様子を、残念ながらドミニク様は気づくそぶりもありません。有無を言わせぬように、ドミニク様はわたくしの腕をやや強引に引っ張り、服装品店に入りました。  店の中で、ドミニク様に言われるがまま、わたくしはすっかり着せ替え人形になります。ああでもないこうでもないと、ドミニク様はやけに嬉しそうに店員さんと話し込んでいました。 「うん、これがいい! 店員さん、これを、彼女のサイズに調整して、一着お願いします」  ドミニク様は嬉々として一つのドレスをつかむと、店員に丈詰めを依頼しました。  数えるのも面倒な数を着せられたわたくしは、さすがにぐったりとしました。ある意味、戦闘よりも疲れます。  ドミニク様の選んだものは薄い青のドレスで、フリルなどはそれほど目立たない、落ち着いた刺繍の施された一着でした。青いドレスを着た時にドミニク様と店員さんの反応が特によかったので、どうやらわたくしは青系の服が似合うようです。わたくし自身も青が好きだったので、好都合です。  自分で言うのもなんですが、美少女ともいえるわたくしは、やや顔つきが派手でした。また、輝く金髪を腰まで伸ばしていることもあって、とかく人目を惹きます。ですので、服自体の装飾は地味目にと、ドミニク様は考えたようです。 「ド、ドミニク様!? これ、かなりお高いですわ! わたくし、こんなものもらえません!」  値段を聞いて仰天しました。わたくしの見習い伝道師としてのお給金の何か月分でしょうか。おいそれと買えるような値段の代物ではありませんでした。さすがにこんな高額なものを贈られるような深い間柄には、まだなっていません。 「ふふふ、気にしないで。実は、一着ドレスを買うように大司教に言われているんです。辺境伯家に赴く際、ドレスの一着もなければ困るだろうって」 「あぁ、そういうことでしたの。それでしたら、お言葉に甘えさせていただきますわ」  ドミニク様の言葉に、わたくしはほっと胸をなでおろしました。  こんな高価なプレゼントをドミニク様にされては、頭がどうにかなってしまうところでした。  と同時に、少し寂しい気持ちも沸き起りましたが……。 「いや、でも……。素敵だねアリツェ。こうしてみると、やはり貴族のご令嬢だなって、よくわかるよ」  べた褒めのドミニク様でした。また、わたくしは顔が熱くなるのを感じます。 「そんな……」  あまりの恥ずかしさに、わたくしはくねくねと身もだえました。  ★ ☆ ★ ☆ ★  服装品店での恥ずかしいやり取りを終えると、わたくしたちは次に、レストランで昼食をとることにしました。  ドレスの採寸などに時間がかかり、ちょうどお昼時になっていたからです。 (それにしても、やっていることが完全にデートだな。見てるこっちが思わず赤面してしまうよ)  また悠太様が不思議な言葉を使いました。 (でぇと……? とは何ですの)  いつものやり取りです。わたくしがすぐに引き出せない悠太様の知識は、本人に聞くに限ります。 (あぁ、端的に言えば、逢引き? 密会ってわけでもないから、ちょっと違うか?) (あ、あいび――)  わたくしは絶句しました。 (逢引きとは、好きあう男女がこっそりと会って愛を確かめ合うという、ちょっと大人向けな本に出てきた、あの逢引きでございましょうか?)  同意する悠太様に、わたくしはパニックに陥りました。 (で、でもわたくしとドミニク様は、そのような関係ではございませんわ! 愛し合うだなんて、は、は、は、はしたないですわっ! それに、わたくしは準成人とは言えまだまだ子供ですし、ああああ、でもでも、ドミニク様はもう立派な成人男性でいらっしゃるから、逢引きも可能? でもでも、わたくしは、わたくしは、あわあわあわ)  わたくしの頭はショートしました。 (……すまん、アリツェ。お前を困らせるつもりはなかったんだ。オレの言ったことは忘れてくれ。これはデートではない、単なる気分転換だ、そうだな? アリツェ?)  少し慌てたように悠太様はわたくしを諭しました。 (ははは、はいっ! こ、これは気分転換でございますわ、悠太様! だ、断じて『でぇと』なるものではございませんわ!)  悠太様の取り繕いに、どうにか持ち直してきたわたくしでしたが、いまだに完全には冷静さを取り戻せていませんでした。 (これ以上アリツェを挙動不審にするわけにもいかない。オレはこれで、失礼するよ)  逃げるように悠太様の意識が沈み込んでいきました。  わたくしが立ち直るまで、それから数分の時を要しました。隣に立つドミニク様は、急に立ち止まってうろたえているわたくしを、不思議そうに見つめていました。  ★ ☆ ★ ☆ ★ 「素敵なお店ですわね」  無作法ではありましたが、物珍しさには勝てず、わたくしは周囲をきょろきょろと見回しました。  ドミニク様が選んだレストランでしたが、この王都でも特に古くから営業している老舗という話です。  赤いじゅうたん敷きの床に、やはり赤の布張りがされた背もたれと座面を持った木造りの椅子。ゆったりと体を包む座り心地の柔らかさが、造りの良さを思わせます。椅子と同じ木材で作られた丸テーブルも、年代を感じさせる温かみがありました。  壁面には、どうやらこの王都出身の画家の作と思われる風景画が飾られており、使われている調度品も、華美すぎず、品があります。天井から釣り下がるシャンデリアが室内を適度な明るさに照らすことで、華やかすぎず落ち着いた雰囲気を醸し出しています。どれもこれも、わたくし好みに合致します。 「教会の神官が言うには、何でも今、王都で一番人気のレストランらしいけど」 「まぁ、そうなんですの! それは、楽しみですわね!」  現地の人間の太鼓判です。これは、味のほうも楽しみでした。  実際、味も素晴らしいものでした。さすがは王都、子爵家で食べていた料理よりも数段洗練されており、わたくしの舌を十分にうならせました。 「お料理も、なんて素敵なんでしょうか。わたくし、これほどの美味は初めてですわ!」 「そういってもらえると、連れてきた甲斐があるよ」  ドミニク様はにこにこと微笑みながら、料理をほおばるわたくしを見つめていました。 「あ、あの……。ドミニク様?」  いったい何でしょうか。見つめられると食べにくいです……。 「いつか、アリツェの手料理も食べてみたいな」  ドミニク様の口説き文句ともとられかねない言葉に、わたくしは思わず料理を吹き出しそうになりました。何とかすんでのところで耐えましが……。 (わ、わたくしもできることなら手料理を振舞いたいですわ! 振舞いたいのですけれど、この器用さが、器用さが……。恨めしいですわ……)  子爵領脱出からこのかた、野営は行っても料理を作る機会がありませんでした。まだ追撃が怖かったので、火を起こさず携行食のみの食事をとっていたからです。ですので、まだわたくしは必殺――文字どおり『必ず殺す』です――の手料理を、ドミニク様に見せてはいませんでした。  なんだかんだで、まったく料理の練習も進んでいません。器用さもまだまだ伸びた実感がありません。そんな恐ろしい手料理を、ドミニク様に出せるはずがないではないですか。 (……今作ったら、人死にが出るレベルのものを作りそうで、怖いですわ)  ドミニク様に何と言葉を返せばいいのか、わかりませんでした。「命が惜しければ、あきらめてくださいませ」とでも言うべきなのでしょうか。いや、さすがにダメですね。  ですので、笑ってごまかしました――。  ★ ☆ ★ ☆ ★  一週間の王都滞在で十分にリフレッシュしたわたくしたちは、辺境伯領へと出発しました。  順調に旅が続けば、一月弱で着く予定です。わたくしは真実への渇望を胸に秘め、足早に歩を進めました。  ★ ☆ ★ ☆ ★  中央大陸歴八一二年十二月――。  まもなく、王国は冬を迎えようとしていました。冷たい風が、街道を歩くわたくしの頬を容赦なく叩きます。  はたして、辺境伯領ではどのような真実が、わたくしを待ち受けているのでしょうか。  この時、わたくしはまだ知りませんでした。自身の出生にまつわる、重大な秘密を……。  ★ ☆ ★ ☆ ★ 【アリツェ・プリンツォヴァ(カレル・プリンツ)】 12歳 女 人間 HP  335 霊素  570 筋力   42 体力   42 知力   45 精神   52 器用   11 敏捷   40 幸運   80 クラス:精霊使い  25(最大2体の使い魔使役可能) クラス特殊技能:表示できません 使い魔: ペス(子犬) 未設定 出自レベル:表示できません 技能才能:表示できません
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