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「──そしたらですね、カエデったら彼氏の顔ひっぱたいたんですよ」 「絵里訂正させて。元カレ、だからね。誰があんなやつと付き合い続けるっての」 「私はカレと結婚するんだ、って言ってたの誰だったかなぁ」 「先輩まで……。若気の至りってやつですよ、《若気の至り》」  ふーん、と先輩は含みを持った笑みを浮かべて、ビールを飲んだ。そして、再び絵里と《私の》話を始めた。  飽きないなぁ、と思いつつ私はビールを飲み頬杖をついて、二人をぼうっと眺めた。何がそんなに面白いんだろう。そんなに私はネタの宝庫なのかな。まあ、私は《黒柳|くろやなぎ》 《楓|かえで》 って名前で植物だらけだし、そのせいで、あだ名たくさんあるし、それに加えて《二十歳黒髪眼鏡美女大生|ぴちぴちで黒髪ロングのメガネ美女》だし、それなりに性格いいし、そのおかげで割と恋愛経験あるし、趣味もたくさんあるし、ロボット造りたいしで、《他人|よそ》からみたら私は面白い人間なのかもしれない。そう思うとどこか自分が誇らしくも感じるし、自分は変わり種なんだろうなとも感じる。 「……クロ、あんたさ、なんでニヤニヤしてんの?」  先輩の方を向くと、彼女は完成したあとに出てきた組み込まれていないネジを見るような目でこっちを見ていた。 「え?あ、それはその……か、カッコいいロボットのアイデアが浮かんだんですよ、はい」  私はなんとかごまかせたと思ったが、先輩が、ふ〜ん、と言っているのを見るに、考えていたことは全てお見通しなのだろう。 「そ、それよりも先輩はそういう話、ないんですか?」  なんとか反撃を試みる。 「それ私も知りたいです!」  絵里も私の提案になってくれたみたいだ。私の横で身を乗り出して先輩の方を見ている。 「……そうね、話してもいいけど、まだあなた達には刺激が強すぎるね。大人になってから出直しなさい」  先輩は勝ち誇ったように言った。大人って、たかがいくつか歳離れてるだけなのに。 「もう大人ですよ〜」  絵里が食い下がる。 「だーめ。ほら、奢ってあげるからもう行くよ」  先輩がそう言うならもう無理だろうな、諦めよう。 「先輩、ゴチになります」 「おう」  会計を済ませ、店を出ると、冷たい風が肌をなめた。寒いし肌がガサガサになるから私は冬が嫌いだ。ほんとに嫌だ。風にあおられながらそんなことを考えていると、先輩が風で広がる髪を押さえながらあることを聞いてきた。 「ところでさっき、ロボットの案思い付いたって言ってたけど、あれどこまで本当?」  この人、まるで素面かのように質問してくる……何者なんだよ、結構飲んでなかったっけ貴女。ていうかやっぱり質問から逃げたのバレてたし。これ以上言い訳しても無駄だろうから、まともに答えることにした。 「あれは一応ホントですよ。今回はごまかすために使いましたけど」 「あ、やっぱりごまかしてたんだ」  しまった。墓穴を掘ってしまった。カマをかけてきてたんだな。全く、この先輩はやはり侮れない。 「まあなんでもいいけど、明日くらいにその案教えてちょうだいね。クロが考えるやつ結構好きだから知りたいの」  先輩はグッっと親指をあげて笑いながらそう言った。 「分かりましたよ。教えます。教えますから帰りましょ、ね?」  先輩にだいぶ気持ち的に押されてしまったので、状況の清算を急ぐことにした。 え〜二次会しないの、と急に酔ったかのように先輩。 この人、まだ飲むつもりなのか。今の店で何杯飲んだと思ってんだ。こうなったら意地でも帰らせてやる。 「ダメです、帰りますよ」 「え〜……そう、わかったわよ。じゃね」  そう言うと、先輩はさっさと行ってしまった。案外折れるの早かったな。ていうか、なんかものすごい満足そうな顔だったけど、なんで?  と、ここまでの流れを静観していた絵里が声をかけてきた。 「カエデは帰らないの?もしかして、今日はやってくの?」 「うん、ちょうどこの辺りにいるみたいだから、やってくる。絵里も来る?」 「今日はパス」絵里は胸の前で腕を交差させた。「そんな気分じゃないし、ちょっとお酒入っちゃってるから何するか分からないもの。それに今日は彼氏と電話したいの」  まあ絵里は最初からそんな乗り気じゃなかったしいいか。にしても……。 「何するってねぇ……まあいいわ。一人だとちょっと心配だけど、じゃあ、また明日。健によろしく」 「大抵はカエデ一人でやってるから心配ないと思うけど。うん、じゃあね」  そうして私たちはそれぞれ反対方向へ歩き出した。
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