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 私は、駅とは反対方向の暗い町はずれを歩いていた。ある目的があったからだ。この辺りの道は最近にしては珍しく監視カメラが少ない。そのためこの辺りでは他の地域より多く警察官が見回りをしている。 先ほどの店から百メートルほど離れた位置にある路地裏。そこに目的のものがある。いや、“いる”と言った方が適切かもしれない。たしか、この角を曲がれば……。 「あ、そこの方。ちょっとだけいいかな」  それなりに高いであろう白いスーツとそれには似合わない擦り切れた革靴を纏った若い男が、薄い街灯に照らされながら声をかけてきた。照らされて暗闇に浮かび上がったその顔は、 韓流イケメン。正直かっこいいと思う。 私に話しかけたわけじゃないかもしれないので一応辺りを見渡してみたが、周りには人はいない。 「え?私ですか。はい、なんでしょう」  裏路地から出てきた謎の韓流イケメンを訝しみ身構えつつ、私は彼に近づいてみることにした。何をされても逃げられる距離を取りつつ。 「その、少しだけ飲みに付き合ってくれませんか?」彼はグラスを傾ける仕草をした。  え?正直、拍子抜けした。治安の悪いこのご時世だから、てっきりこのままホテルにでも連れてかれるものかと思った。  どうやら私が驚いたことは態度にも出ていたらしく、彼は少し焦っているようにも思えた。 「その、変な意味じゃないんです。ただ純粋に誰かと飲みたくて……というか、愚痴を聞いて欲しくて」  そう言って彼はバツが悪そうに頭を掻いた。そして、横目で左腕につけた腕時計を見た。  なるほど、やっぱりこいつ……。やっぱり油断は禁物だな。見た目に騙されちゃいけないや。 「ごめんなさい、実は私、道に迷ってしまって。早く電車に乗らないといけないんで、失礼します」  私は、足早に立ち去ろうとした。振り返った直後、彼が声を上げる。 「君、嘘はいけない。君は駅のある方から来た。嘘をつくような悪い子にはお仕置きが必要だと思わないか?」彼は、逃がさないぞと言わんばかりに強引に話を進めた。  その呼びかけに呼応するかのように、私の退路に二人、韓流イケメンの後ろに二人、黒いスーツを着た格好をした男達がついた。 「君、本当は何しにここに来たんだ?まあそんなことはどうだっていいんだが、僕たちといいところに行こう。天国みたいなところだ。言っとくけど君に拒否権はないよ。もし逃げたら手荒な真似をしなくちゃいけない。怪我はしたくないだろう?」  韓流イケメンは、腰に手を当て、物腰柔らかそうに、しかしどこか高圧的に聞いてきた。と言ってもそれは質問でもなんでもなくらただ単純な誘拐宣言に他ならないが。 「最初からそのつもりだったんでしょ?あと、別に逃げるつもりなんてないから安心してね。私ねぇ、ちょっとこの辺の掃除しにきたの」  私は再び韓流イケメンに近づいて──しかし奴の間合いに入らないようにして──返答してやる。 「掃除?結構なことだな、こんな夜中にか?」もう一度時計を見た。やけに時間を気にしているようだ。 「だって、夜じゃないとあんた達みたいなゴミが出てこないじゃない」 「あ?」  奴は見るからに機嫌が悪そうだった。だが、そんな相手の態度は特に気にせず私は続ける。 「なんかね、この辺りで行方不明者が相次いでるだとかって聞くからさ、見回りしてたらさ、怪しい韓流イケメンがいるじゃない。ていうかあなたのこと見たことあるわ。確かちょっと前まで映画出てなかった?なんでこんな俳優崩れになっちゃったんだか。そりゃ掃除したくなっちゃうわ」 「なにか勘違いしているような気がするが、前の仕事よりこっちの方が儲かるんでね」 「正体表したわね。やっぱりあんた達がどっかやっちゃったんだ」 「だとしたらなんだっていうんだね」 「別に?私のやることは変わらないし。それに、あんたの儲けが俳優だったらころいいのはあんたが演技下手なだけだったからじゃなくて?何が、ちょっと愚痴りたいから一緒に飲みましょう、よ。たしかにあんたはイケメンだけどあからさますぎるのよ。あ、勘違いしないでよね。別に私は人種がどうとか言うつもりじゃなくて、人攫いとかする人間をどうにかしたいだけだから」 「お褒めの言葉ありがとう、お嬢さん。でもね、あんまりスピーチに熱くなっていると周りが見えなくなるよ」  黒服が私の四方を囲んでいた。距離は私を中心に半径二メートル。手を伸ばしても届かない距離だ。と、四人同時に掴みかかってきた。私は左後ろの黒服に持っていたカバンを投げつけ、一瞬相手が怯んだ隙に姿勢を低くして包囲を突破する。逃すな、という声が背中越しに聞こえ、四人が迫ってくる。 「あら、か弱い女子に対して男四人がかりって恥ずかしくないの?」 その言葉に流されたのか、はたまたプライドが邪魔したのか、一人の黒服が他の三人を制した。 これで一対一の状況に持ち込める。  まずは、スキンヘッドの背の高い男が、にじりと詰め寄り私に掴みかかってきた。  迫る相手の右手に、私の右手を食わせ、空いた鳩尾に左拳をめり込ませる。相手の体が曲がり、右手が緩んだところで、自由になった右の肘で相手の顔を突く。ぶちゃ、という嫌な音に続けてスキンヘッドは倒れた。  他の三人は、その状況を読み込めず固まっていた。その中でも復帰が早かったのは二人。 二人同時はきついかもしれないけど、いけるかな。  一斉に掴みかかってきた二人に対し、右足を下げ、上半身を引き、あえて二人に両腕を取らせる。掴まれたままの腕のバネと腰のひねりを加えて右足で一人の脇腹を打つ。相手は怯んだが倒れない。もう一度、と、ここでようやく四人目が動き出した。だが、遅い。体重を私を掴む二人に任せ、前に蹴りを繰り出す。四人目は倒れた。再び動揺した二人に対し、膝を打つ。崩れた二人にそれぞれ股間を打つ。  無力化。残るは一人。  俳優崩れが殴りかかってきた。あら、そういう勝負には強くてよ。物理学、ナメんなよ。  弧を描いて飛んでくる右手に、上半身を左に傾けつつ相手の拳に左手で右下に力を加える。相手は崩れた。が、めげずに右手を飛ばしてくる。左手で受け流しつつ、顎に右肘を叩き込む。  少しの間ののち、スーツは両手を投げ出し、後ろに倒れこんだ。
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