フォントをダウンロード中
ページの左右でマウスを左クリックします。
または、 キーボードの左右の矢印キーを入力します。
ページ上で指先を左右になぞると、 前/次ページへ移動します。
メニューはページをタッチすると現れます。
× ヘルプを閉じる
 街灯の少ない薄暗い道を歩く。もう満月が昇る夜だったし、決して暖かいとは言えない気温だったから、出歩く人はほとんどいなかった。まあ人がいろうといなかろうと、あたしには関係ない。ただ一つの目的地を目指して、あたしは歩いている。数回しか行ったことはなくて道に不安ではあるが、自分の記憶を信じて進むしかない。  さっき家を出た時、当然のことながらお母さんに呼び止められた。前に魔力者であることを打ち明けて以来、とりあえず理解してくれて、反対することはなくなった。むしろ魔法のことを、良い意味でも悪い意味でも色々と聞いてくるようになった。それはまあ、結構嬉しかったりもする。  でもさすがに、今日は怒られた。「なんでこんな時間に出歩くんだ」って。正直に「コノハを取り返すため」って言ってもなかなか許してくれなかったから、仕方なくこう言った。 「雷さんと一緒に行くから大丈夫だよ」  ウソである。しかし、誰かと一緒じゃないと許してくれないだろうからウソをついた。お母さんは疑いの眼差しを向けてきたが、最終的には了承してくれた。だからあたしはこうして、心置きなく目的地へ向かっていられるのだ。  そうしてあたしはたどり着いた。目的地「天神家」に。塀に囲まれた敷地はかなり広い。中には昔ながらの日本家屋が見える。ここだけ時代が違うんじゃないかと、来る度に思っていた。けど、入ったことはないから、内心ドキドキしている。  木で出来た門の横に、現代物インターホンが設置されている。あたしはそのボタンを押した。少し間を置いて、女の人の声が聞こえてきた。 「はい、どちら様ですか?」 「華城蘭李です。コノハを取り返しに来ました」 「………少々お待ちください」  自分でもおかしいと思ってる。堂々と何言ってるんだって。普通、取り返しに来るんならコッソリ忍び込んで行くもんだって。  でもやらなかった。コノハもいないし、そんなことあたしには出来ないから。  ……………銃は使わない。絶対に。  ――――――――ガタッ 「お待たせ致しました」  門が開いた。中から茶髪の女の人が現れる。その人に連れられ、あたしは敷地の中へと入った。当然中には街灯は無いが、蛍のように小さな光の玉がそこら中に漂っていたため、かなり明るかった。そこを通り抜けて玄関をくぐり、連れられるままに廊下を歩いていく。  やがて通されただだっ広い畳の部屋には、一人の男の人がいた。茶髪に紺の着物姿で、胡座をかいて待ち構えている。その人の脇には、鞘に入ったままのコノハが置いてあった。 「敵陣に堂々と乗り込むとは、良い度胸をしているな? 華城蘭李」  男は橙色の視線を向けてきた。あたしは少しだけ近寄り、畳の上で正座をした。真っ直ぐに男を見据える。 「しかも今日のうちに。さしずめ、六支柱が弱っている今のうち、と思って来たか?」 「……あなたは、雷のお父さんですか?」 「天神朝陽。光軍の長であり、雷の父だ」 「コノハを返してください」 「ただでは出来ないな」  そうだろう。そうじゃなかったらコノハを取った意味はないだろう。 『朝陽』はパチンと指を鳴らした。すると、朝陽の奥のふすまを開けて、もう一人の男が現れた。そいつは、あたしが撃ち抜いた六支柱と一緒にいた奴だった。男は朝陽の少し後ろに正座する。 「華城蘭李。貴様が神空蒼祁と神空朱兎を殺したら、この魔具は返してやろう」  朝陽はコノハを手に取り、水平に持ち上げた。コノハは出せ出せと、ぶるぶると震えている。しかしそんなの朝陽が聞くはずもなく、コノハを背後の男に渡した。 「貴様は神空蒼祁と朱兎が油断する唯一の存在だ。二人を殺すのに最も適している人物とも言える」 「………コノハが使えないと、あたし戦えませんけど?」 「《未丑|みうし》から話は聞いたぞ。貴様、卯申を撃ち抜いたそうじゃないか」  無意識に朝陽を睨んでいた。朝陽は特に気にする様子もなく、背後の男から一丁の銃を受け取る。それを、あたしに見せるようにかざしてきた。 「ここに入っている銃弾は、貴様が使ったのと同じく、無属性の魔力が込められている。これを使え」  それを聞いてやっと納得した。なんであの時、銃弾は結界を破ったのかが。  蒼祁が渡してきた銃には、今言われたように魔法を打ち消しにする弾―――無属性の弾が込められていたんだ。  だからあたしの弾は、六支柱の頭を――――――。 「やるか?」 「……やらなかったら?」 「魔具は死に、貴様は地下牢で魔力を永遠に生み出す装置になってもらう」  後ろに気配がして振り向いた。小学生くらいの男の子と、高校生くらいの女子が立ち塞がっていた。どちらもスーツを着ている。  逃げ道は無いってことか―――あたしは再び朝陽に向き直った。 「いくら油断するって言っても、さすがに殺せないと思うんだけど……」 「殺せなかったら貴様と魔具が死ぬだけだ」  ――――――ふと思った。この人と雷は全然似てないと。雷はこんなに冷たい人じゃないと。  どうしてこの人は雷の親なんだろう。いやむしろ、どうして雷はこの人の子供なんだろう。こんな思想の元にいて、なんで雷は優しい子でいれるんだろう。分からない。もしまた雷に会えたら聞いてみよう。  あたしは少し笑い、立ち上がった。スタスタと歩き、朝陽の前で立ち止まる。 「いいよ。殺してやる」 *  雷に連れられ、蒼祁とメル、それから睡蓮は彼女の家に到着した。高い塀を見上げる蒼祁をよそに、雷は門へと近付く。 「蘭李、捕まってるのかな……」 「殺されはしてねぇだろ。色々と使えるだろうしな」 「お父さん……」  雷から沸々と怒りが沸き起こる。ちょうどその時、門がゆっくりと開かれた。驚いた雷に、中から茶髪の女性がスッと顔を出す。 「雷………あの人が待っているわ」 「お母さん………」  雷は悲しそうに母親を見た。雷の母親はちらりと目を向ける。娘と同じ橙色の瞳は、蒼祁とメルを見据えた。 「そこのお二人もどうぞ」  雷は息を飲んだ。このまま中に入ったら危険な気がする。でも入らなきゃ、蘭李とコノハがどうなるか………。  そうこう考えているうちに、先に蒼祁が敷地へ入ってしまった。続けてメルも入っていく。二人の躊躇いの無さに驚くも、雷は彼らの後を追った。彼女が入ると、母親は門を閉める。  睡蓮もついていこうとしたが、結界のようなものに弾かれてしまった。仕方なく彼は門前で待っていることにする。 「蒼祁! メル! 危ないよ!」  雷の制止に気にする様子のない蒼祁とメル。 「なら外で突っ立ってろって?」 「そういうことじゃ―――――」  ――――――――――パンッ  蒼祁が左へ飛んだとほぼ同時に発砲音が鳴った。雷とメルは驚いて彼を見る。しかし彼は、ある一点に集中していた。二人も倣って見ると、家屋の中から縁側を通って、一人の少女がピョンと出てきた。その姿に、雷は思わず声を上げる。 「蘭李⁈」  そう。蘭李だった。彼女は左手に銃を持ち、蒼祁を睨んでいた。雷は彼女に駆け寄ろうとするが、すぐさまメルに止められる。 「蘭李⁈ どうしたの⁈」 「蒼祁を殺しにきたの」 「えっ⁈ 何言って――――」 「お前らはコノハを取り返してこい」  雷の言葉を遮る蒼祁。瞬時に雷は理解した。  蘭李はコノハを人質にとられている―――――。 「……分かった! 行こう! メル!」 「はい」  二人は家の中へと駆けていった。ふう、と息を吐き、残った蒼祁は左手を腰に当てる。 「あんなに嫌だ嫌だって言ってたくせに、アッサリ使ってるじゃねぇか」 「…………」 「ノーコメントか。まあいい。お前、俺に勝てると思ってるのか?」 「………思ってるよ」  無数の光の玉の中、蘭李は目を黄色に光らせていた。蒼祁も青く光らせ、それを彼女に向けている。彼女の足は、少しずつパチパチと電気を溜め込み始めた。その右足を一歩後ろに下げ、体勢も低くする。 「前とは違う―――――!」  そして一気に飛んで、蒼祁との距離を詰めた。
1
15
シリーズ一覧
感想を送る
作品を紹介
ブックマーク
しおりを挟む
作品情報
使い方
登録が完了しました!
確認事項
戻る
実行